北太平洋西部に亜寒帯海面水温前線(北緯40度近辺)が存在する.本年度は,衛星観測海面水温資料を用いることで,この水温前線の強度変動特性の理解を目指した.1982年から2011年までの振る舞いを調べた結果,前線強度は準10年周期で変動することがわかった.次に,変動要因特定のために,船舶等により採集された水温・塩分資料を用い,合成図解析(前線強化期・弱化期)を行った.その結果,前線南部(黒潮・親潮混合水域)に分布する高温・高塩分水が,前線強化の主因であることがわかった.そこで,この高温・高塩分水の起源を特定するために水系解析を行った結果,黒潮系の水塊であることを見出した.また,この黒潮系水は,北緯35度近傍の黒潮続流から切離した渦(直径200km程度)により輸送されることがわかった.次に,亜寒帯水温前線が大気場に及ぼす影響を理解するために,気象庁作成の大気再解析資料を使用した.その結果,水温前線の強化に伴い,直上気温の傾圧性(南北勾配)も増すことがわかった.これは,大気への海洋強制の存在を示す証拠であり,大気海洋系の実態解明に資する成果である. また,研究対象とした亜寒帯水温前線近傍では,中央モード水(水温・塩分が一様な水塊)が形成される.そこで,水温前線のさらなる理解を得るために,気象庁気象研究所提供の歴史実験資料を用い,中央モード水の時空間変動特性を調べた.その結果,この中央モード水は,海洋内部を南部に移流することを見出した(移流速度は毎秒1 cm程度).さらに,移流に伴う渦位構造の変化が,東部亜熱帯海面水温前線(北緯27度近辺)の強度を決定していることがわかった.すなわち,本研究により,中央モード水が,亜寒帯前線と亜熱帯前線をつなぐ「架け橋」としての役割を果たすことが明らかになった.本成果は,気候系の変動機構解明に資するものである.
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