研究実績の概要 |
本研究では大気・海洋・波浪モデルの開発を行い、波浪による海面の粗度、波齢(波の位相速度と風速の比)、波向を考慮して、台風のような強風下でも物理的に整合性のとれた大気海洋間フラックスが得られるようにした。 従来の海洋モデルでは、主に10m高風速に依存する形で、海面を通過する運動量フラックス(風応力)をパラメータ化している。熱フラックスも大気海洋間の温度差に基づいた簡単なバルク式がよく使われている。特に、大気から海洋への運動量の伝達経路として、従来の(波浪なし)海洋モデルでは風→表層流のような直接伝達を仮定している。しかし理論的には風→波浪→表層流のように波浪の生成と消散を経由した2段階伝達になることが示唆されている。本研究ではこのような理論を再考察し、波浪が運動量伝達および海洋混合層の乱流エネルギーの収支に与える影響についてまとめた論文 (Aiki Greatbatch, 2012, 2013a,b, Journal of Physical Oceanography) を3本出版した。 さらにこの2段階伝達を大気・海洋・波浪結合モデル内で実現し、例えば、風が吹く領域(運動量はまず波浪に伝達される)と波浪が砕波する領域(運動量が海流に伝達される)が異なるといった状況も再現できるようにした。過去の複数の台風に対する再現実験を行い、海面水温と波浪による海面摩擦が台風強度に与える影響を調べたところ、波浪の影響が海面水温の影響を上回る事例が複数存在する事が分かった。
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