1. モデル小腸壁状における濡れダイナミクスの制御: 固体粒子の添加が濡れダイナミクスに及ぼす影響を系統的に解析し、平らな寒天ゲル上では粒径数十nmのシリカ粒子を添加することで濡れ速度が遅くなることを明らかにした。この現象は、液体が濡れ広がる三相接触線において固体粒子が組織構造を構築、局所的に増粘するために起こることが示唆された。また、ほとんどの糖類やアミノ酸の添加は濡れダイナミクスに変化をもたらさなかったが、プロリンを適量添加すると曳糸性によって特徴的な濡れプロファイルが現れることを見出した。プロリンは分子会合体を形成することが知られており、このことが曳糸性の発現に関与しているものと考えているが、現在のところメカニズムの詳細は不明である。 2. 小腸表面における濡れダイナミクスの解析:液滴が固体表面を濡れ広がる時の自由エネルギー変化を見積もる基本モデルを用いて幾つかの濡れ現象を解析した。ミリメートルオーダーのピラーが存在するシリコーン樹脂表面を液体が浸透する過程を観察、液滴の形状を詳細に解析することにより、濡れ・浸透現象の支配因子を探索した。さらに疎水性基板上に形成した細孔中に水が浸透するプロセスを高速観察し、その過程における系のエネルギー変化を見積もった。 このように、小腸壁表面で起こる濡れ・浸透現象の物理的モデルを構築し、その支配因子を明らかにすることが出来た。また、濡れのダイナミクスをコントロールする上で有効な物質の探索にも成功した。これらの成果は生体表面で起こる界面現象を理解し、それに基づいてヘルスケアテクノロジーを開発する上で有用である。
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