研究領域 | ソフトインターフェースの分子科学 |
研究課題/領域番号 |
23106709
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山本 拓矢 東京工業大学, 大学院・理工学研究科, 助教 (30525986)
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キーワード | 環状高分子 / 両親媒性 / ブロック共重合体 / トポロジー効果 |
研究概要 |
我々は、好熱菌と呼ばれる一部の単細胞性の古細菌がその細胞膜に環状の脂質分子を有することで海底火山や温泉など熱水環境で生息できることに着想を得、両親媒性の直鎖状ブロック共重合体を環状化し、直鎖・環それぞれの自己組織化体の特性を比較検討した。すると驚くべきことに、環状高分子ミセルは、直鎖のものと比べて構造崩壊温度(曇点)が飛躍的に上昇(24℃→74℃)することを見出した。さらに、耐塩性の向上も確認している。つまり、直鎖から環へのトポロジー変換によって、高分子の組成・化学構造や分子量およびミセルの形状やサイズに一切影響を与えることなく熱安定性および耐塩性が大幅に向上した。それまでの報告によれば曇点の上昇は5℃程度が限界であったが、前述の研究において、50℃もの熱安定性の改善という非常に顕著な『トポロジー効果』を初めて発表した。さらに、直鎖状・環状高分子の混合比調整により、その広い範囲でのミセルの崩壊温度制御にも成功した。 この現象は多岐の分野から強い興味が持たれ、Natureおよびその姉妹誌であるAsia Materialsにハイライトされた。さらに化学的には同じ物質を使用しているにもかかわらず広範囲での崩壊温度制御機能は、温度応答性ドラッグデリバリーシステム(DDS)をはじめとする様々な機能材料開発につながる新技術として産業界からも注目された。 本研究課題は、上述の研究成果を発展させ高分子の『かたち』(高分子トポロジー科学)と自己組織化(超分子化学)の融合による新規複合分野の開拓を目指し、この着想に基づく分子システムの応用の探究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の成果を高分子論文集に発表した。(山本拓矢高分子の『かたち』に基づく機能発現,高分子論文集2011,68,550-561.) さらに、招待講演を含む多数の学会発表を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
上述の実験結果において、環状高分子が形成する球状ミセルが直鎖状のものに比べて50℃も優れた熱安定性を示したが、その理由としてミセルの中心に存在する高分子疎水部の運動性の違いが考えられる。直鎖のものは疎水部が分子鎖の両末端に位置するため運動性が高く、比較的低温でもミセルコアから片末端が可逆的に解離していると考えられる。これが隣接するミセルと架橋し凝塊を生じたと予想される。これに対して、環状高分子はその末端同士が結合した形状のため疎水部の運動性が抑制されており、その結果、加熱に対して安定なミセルを形成したと考えられる。この仮説を検証するためにパルス法NMR緩和時間測定を用いた実験を行う。温度可変測定を行うことで、ミセル溶液が懸濁する際の直鎖状および環状高分子の親水・疎水各セグメントの運動性を詳細に調査し、崩壊メカニズムの相違を解明する。
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