平成24年度は,ソフトインターフェースの理解に重要な視点を与えると思われる,微量分子水が果たす界面薄膜や高分子の構造変化に関する研究を,分光学的に実施した. 赤外反射吸収(RA)法は,金属表面に吸着した分子を高感度に測定できる方法として有用であると同時に,膜面に垂直な遷移モーメントを選択的に観測できる表面選択律によって,官能基単位で分子配向解析ができる点でも優れた分光分析法である.原理的にあらゆる金属表面が使える点も特筆すべきだが,実際には化学的に安定な金がよく用いられる. 一般に金属は高い表面エネルギーをもつことから,理屈の上ではすべての金属は高い親水性を示す.しかし,実際に金の表面に水を垂らすと水滴は丸くなり,むしろ疎水性が強い印象がある.この点は古くから議論され,1980年ころに理論と実験両面から一つの結論に達した.すなわち,完璧にクリーンな表面は親水性を示すが,わずかにコンタミが付いただけで親水性が急激に低下する.実際,金基板は電気化学的に酸化還元サイクルを与えたり,炎で焼いたり,強い酸化剤によって表面を化学処理するなど,厳しく清浄化した直後だけ親水性を示す.一般によく用いられる,有機溶媒を用いた超音波洗浄程度では,疎水性表面になる. 金基板をLangmuir-Blodgett(LB)膜の基板として用い,水面上に展開した単分子膜を垂直法で引き上げると,この疎水性が災いして,きわめて低い転写率しか得られない場合がある.これまで,転写率の悪いLB膜を研究した報告例はほとんどなく,疎水性表面での吸着分子の挙動は全くわかっていなかった. 本研究では,疎水的な金表面に弱く吸着したステアリン酸分子が,空気中の水分に影響を受けて大きな配向変化を示す様子を,赤外RA法に加えて偏光変調赤外反射吸収分光法(PM-IRRAS)を組み合わせることで解析した.
|