研究領域 | ソフトインターフェースの分子科学 |
研究課題/領域番号 |
23106722
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
吉川 佳広 独立行政法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 研究員 (30373294)
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キーワード | 表面加工 / ナノバイオ / 酵素 / 自己組織化 / 高分子構造・物性 / 走査型プローブ顕微鏡 / 薄膜 / 生分解性高分子 |
研究概要 |
本年度は、効率的なバイオエッチング手法の開発を目指し、生分解性高分子の規則的パターニングに取り組んた。生分解性高分子の一つであるポリ(e-カプロラクトン)(PCL)の高配向グラファイト(HOPG)への設置を試みた。特に、フラーレンやカーボンナノチューブといった炭素材料を添加した際の結晶配列形態について検討した。具体的には、3種類の分子量のPCLクロロホルム溶液を調製し、様々な割合で炭素材料を添加した。そして、HOPG上にスピンキャストして成膜し、キャスト膜および溶融結晶化膜の表面形態を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した。キャスト膜に関しては、炭素材料を添加した方がedge-on結晶(基板に対して垂直に配列した結晶)の持続長が長くなる傾向が認められた。一方、溶融結晶化膜では持続長が短くなった。これらの構造変化の要因は不明であるが、炭素材料の添加によりPCLの形態を様々に変化できることがわかった。本研究では、生分解性高分子の規則表面を酵素分解でバイオエッチングした後に形成されるアレイ構造内に、自己組織化で作製した機能性分子群を集積化することを最終目的としている。その際に、酵素の基質特異性を利用することを目指している。そこで、キチナーゼの基質結合部位(ChBD)とキチンあるいはセルロースとの相互作用をAFMのフォースカーブ測定により解析した。その結果、ある特定の負荷速度でフォースカーブ測定した際には、ChBDはキチンあるいはセルロースのいずれに対してもほぼ同一の結合力を有していることがわかった。したがって、両多糖類の側鎖構造はChBDの結合にそれほど影響を与えず、主な相互作用の要因は、ChBDの表面に露出した芳香族アミノ酸とピラノース環との疎水性相互作用であることが示唆された。得られた知見をもとに、ChBDを用いたナノ物質の配置への応用を来年度以降に行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生分解性高分子ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)の結晶成長を制御して配列形態を変化させる方法を見出した。また、機能性分子群の固定化に必要な酵素-基質間の相互作用力を定量的に原子間力顕微鏡で評価することができるようになった。そのため、来年度以降には酵素分解を利用したバイオエッチング手法で特定領域にアレイ構造を作製し、ナノ物質を配置する最終目標に向けた研究を展開できる足場を築くことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
大面積でのバイオエッチングをするため、簡便かつ環境低負荷な加工法を更に探索する。また、バイオエッチングで作製したアレイ構造内への機能性分子群の集積化に際し、分子間相互作用を制御することが重要な課題となるため、相互作用の定量的および定性的評価を取り入れた研究も展開する。そして、最終的にはバイオエッチングを用いたソフトマター加工の優位性を示し、新しいソフト界面の創出に貢献できることを目指す。
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