我々は、遺伝子認識イベントを検知するスイッチ機能を備えた高機能ソフトマテリアルとして、新規シグナルオン型の遺伝子検出プローブを考案し、分析対象の標識化が不要な電気化学遺伝子センサの開発を行ってきた。本課題では、センサの高感度化のため、活性中心となる金属錯化合物とこれに対するアプタマーとで人工的に酵素を構成する(アプタザイム)ことを試みた。 鉄ポルフィリンの一種であるヘミンを認識するアプタマー部位を電気化学活性部位として、かつイミダゾール基を阻害因子として、それぞれ両端に取り付けた新規遺伝子プローブを考案した。遺伝子プローブの合成に先立ち、ヘミンアプタマーとヘミンにより構成された部位の、電気化学活性なアプタザイムとしての可能性を検討した。 分光学的および電気化学的な検討により、ヘミン添加後の404 nm の吸光度上昇から、ヘミンはヘミンアプタマーのグアニン(G)四重鎖構造内部に取り込まれることが分かった。更に、ヘミン内包G四重鎖への電子供与材料と過酸化水素との添加後に418 nmの吸光度が上昇したことから、本四重鎖はこれらの間での酸化還元反応を仲介するいわば酵素として働くことが分かった。一方、イミダゾール基を有する物質であるヒスタミンを添加した際、本四重鎖の酵素活性能が阻害された。本結果から、本四重鎖は電気化学的なアプタザイムとしての可能性を示すことができた。 また、1つのデバイス上に遺伝子センサをマルチ化して配置することで、網羅的診断が可能かどうかの検討も行った。複数の遺伝子配列を有する遺伝子センサアレイチップを作製し、プローブ/ターゲット間のハイブリッド形成前後におけるセンサ応答の変化を元に、複数の核酸塩基配列の相補・非相補を完全に判別可能であることが分かった。本結果は、診断対象として重要性が急速に高まっているmRNAやmiRNAに対して、本法が適用可能であることを示している。
|