疎水性であり、かつアモルファスな性質を示すポリ(トリメチレンカーボネート)(PTMC)は、環状モノマーであるトリメチレンカーボネート(TMC)の開環重合により得られ、例えば親水性のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(mPEG)との組み合わせから、親水-疎水ブロックポリマーを得ることができる。このポリマーの超薄膜は、乾燥条件下では疎水性を示すにもかかわらず、水と接触すると直ちに親水性表面に変化する性質を示す。このようなmPEG鎖の自発的な再配向に基づく表面特性の変化を利用すると、診断用の基材の表面での非特異的なタンパク質吸着を抑制できる。さらに、タンパク質などの固定化に利用可能な官能基を有するリトコール酸(LA)やコール酸を用いてTMCを重合させると、バイオ分子が固定化された診断基材としての表面被覆材に応用できる。本年度は、リトコール酸を末端に有するPTMCを合成し、タンパク質の固定化についての検討を推進した。リトコール酸の水酸基を重合開始点としてTMCの開環重合を行った。得られたポリマーの解析は1H#8211;NMRおよびサイズ排除クロマトグラフィーにより行った。その結果、TMCの重合度が367および76のポリマーが得られ、石英基板へコーティングして超薄膜を作製した。この膜に蛍光分子であるフルオレセインイソチオシアネート(FITC)で標識された血清アルブミンを水溶性カルボジイミドの存在下で固定化し、基板の吸収スペクトルを測定することにより固定化されたタンパク質の量を算出した。その結果、PTMCの重合度が小さいポリマー膜の方が固定化量がおよそ1.5倍多く(4 μg/cm2)なることが明らかとなった。このことは、鎖長の短いPTMCポリマー鎖から創製された膜に存在するリトコール酸分子の分子運動性が高く、結果として固定化量が高くなったと推察された。
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