研究概要 |
本研究の目的は、六放海綿類カイロウドウケツのシリコンバイオミネラルに含有される有機分子を同定し、その分子構造および機能を解明することである。得られた成果に基づき、新たなシリコン機能材料の形成プロセスを提案することを最終的な目標とする。平成23年度は、カイロウドウケツシリコンバイオミネラル骨格に含有される有機分子の抽出、同定および構造の解明を計画した。 長崎大学水産学部附属練習船長崎丸でのビームトロールにより東シナ海(五島近海)水深約100mからカイロウドウケツ(Euplectella sp.)を採集した.また,Dr. J, C. Weaver (Harvard Univ.)よりカイロウドウケツ(Euplectella aspergillum)骨格を贈与していただいた. 個体の一部または骨格を次亜塩素酸ナトリウム水溶液で洗浄して骨格の外部に付着する有機分子を取り除いた後、シリカを溶解した。溶解液およびその残渣を回収し,遠心分離操作により水溶性画分と不溶性画分に分画した。有機成分はシリカ骨格の約0.1%であり、そのうち90%が不溶性分画に含まれていた。水溶性画分はpH5~6においてシリカ沈降活性を示した。その主要成分として、23kDaのタンパク質が見出された。このタンパク質をglassinと命名した。水溶性画分の酸加水分解物についてアミノ酸分析を行ったところ、アミノ酸の1/3がヒスチジンで占められており、glassinがヒスチジンに富んだタンパク質であることが推定された。 シリカの沈降を促進する有機分子として、これまでにシリカテイン、コラーゲン、シラフィンやポリアミンといった分子が見つかっている。今回見られた沈降したシリカの形状やpH特性はこれまでに見つかった分子が示した性質とは異なるものであり、カイロウドウケツのシリカ骨格にはシリカの形成に関与する新しいタイプの分子が存在していることが示唆される結果を得ることができた。このことは新たな融合マテリアルを創成する上で、重要な知見となる。
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