本研究では、我々が以前開拓したトマトブッシースタントウイルス(TBSV)由来のβ-Annulusペプチドからなる合成ウイルスキャプシドを用いて、タンパク質および無機微粒子との融合マテリアル「着せ替えウイルスキャプシド」を創製することを目的としている。本年度は、合成ウイルスキャプシドへのDNAの内包、および、ヒト血清アルブミンによる表面の着せ替えを検討した。 β-Annulusペプチドからなる合成ウイルスキャプシドのゼータ電位のpH依存性から、N-末端がカプセル内部に、C-末端が外部に配向していることがわかった。つまり、中性pHにおいて、カプセル表面は両性イオンであるが、内部はカチオン性に富んでいることが示唆される。この合成ウイルスキャプシドへのM13 phage DNAの内包を検討したところ、透過型電子顕微鏡(TEM)によりDNAとペプチドの二層構造を有する約85nmの球状構造が観察された。 次に、ヒト血清アルブミン(HSA)で着せ替えた合成ウイルスキャプシドの創製を検討した。HSA表面にはジスルフィド形成していないCys残基が一つだけ存在しているので、これを連結ターゲットとして、HSA-β-Annulusペプチドコンジュゲートを合成した。 このHSA-β-Annulusペプチドコンジュゲートの自己集合挙動を調べるために、10 mM 酢酸buffer (pH 4.8)中でのDLS測定を行った。コンジュゲート単独(0.1mM)では、127nmほどの凝集体の存在が示唆された。一方、β-Annulusペプチド: コンジュゲート = 3 : 1の混合溶液([peptide] = 0.1 mM)では、約70 nmほどの集合体の存在が確認できた。この粒径は、合成ウイルスキャプシド表面をHSAが単分子層で覆っていることに相当しており、HSA単分子での「着せ替え」に成功したと言える。
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