研究概要 |
本年度は温熱治療や診断用材料として有用なマグネタイト-高分子ハイブリッド作製において,有機高分子の添加がマグネタイト結晶の構造に及ぼす影響について調査を行った。その結果ポリアクリル酸,ポリスチレンスルホン酸などのアニオン性高分子の添加によりマグネタイトの結晶性が低下するとともに,レピドクロサイトなどマグネタイト以外の酸化鉄の生成が認められた。これはアニオン性高分子と鉄イオンがイオン間相互作用して,マグネタイトの前駆体である2価の水酸化鉄の生成を阻害したためと考えられる。これに対して中性のポリビニルアルコールやカチオン性のポリジメチルジアリルアンモニウムクロリドを添加した場合には,マグネタイトのみの生成が認められた。これらの結果は有機高分子とマグネタイトの前駆体である鉄イオンとの相互作用が,その後の結晶生成挙動に大きな影響を及ぼすことを示しており,マグネタイト-高分子ハイブリッド材料作製のための基礎的指針を与えるものである。また,得られたハイブリッドを有機溶媒と混合してエマルションを調製し,これをアルコール中で脱水することで,温熱治療に適した直径20~30ミクロンの微小球が得られることが明らかになった。また,表面に予めシリカをゾル-ゲル法によりコーティングしておくことで,体液類似環境下における微小球の崩壊や鉄の溶出を抑えることができ,生体内で長期にわたって形状を維持しながら安定に存在できる温熱治療用微小球が作製できることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
マグネタイト-高分子ハイブリッド作製において,添加する高分子として,現在推進している種々の官能基を有する鎖状高分子だけでなく,コラーゲン,DNAなどのらせん状高分子や,デンドリマー,かご形,球状高分子などの特異な立体構造を有する高分子も次年度では選択し,マグネタイトの形態がこれら高分子の構造に応じていかに変化するかを明らかにする。また,一般にアスペクト比が高く,しかも結晶子サイズが40nm以上の針状マグネタイトは交流磁場の下で優れた発熱特性を示すことが知られている。そこで,高い温熱治療効果が見込まれる針状のマグネタイトを得る方法についても探索を行う。
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