研究実績の概要 |
BNCTとはエネルギーの低い人体に無害である中性子を用いるがん放射線療法の一種である。体内で発生する放射線の飛程は細胞一つに相当する約10 μm以下である。ホウ素10元素をがん細胞に選択的に送達出来れば、周囲の正常細胞に影響することなくがん細胞を一細胞ずつ殺傷することが理論上可能であり、副作用の無いがん治療法となる。しかし、現在臨床応用されているホウ素薬剤は、水溶性や腫瘍選択性・蓄積性が低いなどの欠点があり、また、BNCTの治療効果を向上させるためには腫瘍細胞内ホウ素10濃度を高めることが不可欠であり、そのため現在使用されている低分子ホウ素化合物と比較しよりホウ素10を高集積化した薬剤の登場が望まれている。本研究では、ホウ素含有無機化合物をホウ素源として用いることで、標的細胞内内でのホウ素高集積化を目指す。 BNCT効率を高めるために、一粒子あたり多量の10Bを含む希土類金属酸化物ナノ粒子を調製し、さらに血中滞留性を高めるためにコンドロイチン硫酸によるアニオンコーティングした新規BNCT薬剤を開発し、担がんマウスに対するBNCT評価を行った。 担がんマウスに対し、B含有Sm, Gd, Y酸化物ナノ粒子はいずれもカチオン表面電荷を有していた。血中安定性を高めるためにコンドロイチン硫酸でアニオンコーティングし担がんマウス腹腔内に投与し、京大原子炉にて約 5 x 1012 フルーエンスの中性子を照射し、腫瘍増殖を観察した。その結果、Y酸化物を投与した照射群で最も腫瘍増殖抑制効果を示し、延命効果が高いことが確認された。さらに、10B濃縮ホウ酸を用いて合成したY酸化物ナノ粒子でBNCT評価を行ったところ、より高い腫瘍増殖抑制能を有することがわかった。 以上の結果より、含ホウ素希土類酸化物ナノ粒子特にY酸化物はBNCT用新規ホウ素薬剤として薬剤の投与量軽減や治療効果の向上が期待できる。
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