研究概要 |
本研究では,無機ナノ粒子や金属ナノ粒子の表面上に原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用いて分子応答性ゲル層の形成を試み,本年度は以下のような成果が得られた。 (i)無機ナノ粒子表面上での分子応答性ゲル層の形成 無機ナノ粒子としてSiO_2粒子を用い,この表面にシランカップリング反応によってATRPの開始末端となる臭化アルキル基を導入した。さらに,これまでに合成してきた分子応答性ゲルの合成方法を参考にし,ATRP法によってSiO_2粒子表面上で分子応答性ゲル層を形成させた。分子応答性ゲル層としては,環境関連分子として内分泌かく乱化学物質の疑いのあるビスフェノールA(BPA)に応答する分子応答性ゲル層の形成を試みた。まず始めに,BPAのリガンドとして用いるシクロデキストリン(CD)に重合性の官能基を導入した。次に臭化アルキル基導入SiO_2粒子を分散させた溶液中で上記のCDリガンドモノマーと親水性モノマーをATRP法によって重合させ,分子応答性ゲル融合SiO_2粒子を調製した。合成条件によって分散安定性の低い融合SiO_2粒子が得られ,凝集沈殿が生成することがわかった。そこで,重合条件とゲル形成状態との関係を検討し,分子応答性ゲル層を形成させる最適条件を検討した。 (ii)金属ナノ粒子表面上での分子応答性ゲル層の形成 まず,クエン酸還元法により,金属ナノ粒子として均一なAu粒子を調製した。このAu粒子の表面とチオール基との反応によってATRPの開始末端となる臭化アルキル基の導入を試みた。しかし,条件によってAu粒子の表面修飾時に,粒子の安定性が変化して凝集する現象が観察された。そこで,表面改質条件を詳細に検討し,分散安定性の良好な状態で臭化アルキル基を導入させたAu粒子の調製を行った。さらに,(i)のsiO_2粒子表面上での反応と同様に,ATRP法によってAu粒子表面上でBPAやグルコースに応答する分子応答性ゲル層の形成を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SiO_2粒子表面への分子応答性ゲル層の形成は計画以上に進んでいるが,Au粒子表面でのゲル層形成は予定よりも少し遅れている。これは,Au粒子の表面に重合反応の開始末端を導入する際に,Au粒子の安定性が変化して凝集するためであった。そこで,Au粒子の安定性を低下させずに,その表面に開始末端を導入する方法と条件を探すために時間を要したので予定よりも少し遅れた。二つのテーマの進み具合の結果としてほぼ順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
SiO_2粒子表面にBPA応答性ゲル層を形成させることには,ある程度成功したので,今後はそのBPA応答挙動について詳細に検討する。また,抗原抗体結合などの生体分子複合体を導入したゲル層も形成し,生体分子応答性ゲル融合SiO_2粒子の調製も試みる。一方,Au粒子表面への分子応答性ゲル層の形成は,Au粒子の分散安定性に影響するため,さらに合成条件を検討する必要がある。今後,表面修飾方法などを検討し,BPA応答性ゲル層や生体分子応答性ゲル層の形成を試みる予定である。
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