生体分子は自発的な集合により、人為的には不可能な精緻さ・優美さでナノ構造を創る。特に脂質膜内に形成される膜タンパク質チャネルは、小分子の自己集合により数Åから数nmの超微小孔をいとも簡単に形成する。本研究は、これまでMEMS技術による創薬支援の膜タンパクチップ作製の技術基盤を応用することにより、生体分子が自己集合して作るナノチャネルをマイクロ構造中に組み込むことで融合マテリアルを創製する。特に本提案では、環境分子を一分子で計測できるバイオセンサのみならず、創薬スクリーニングシステムに展開していく予定である。膜タンパク質は細胞膜中に存在し、細胞の内外への物質輸送・排出、シグナル伝達・変換などにおいて重要な役割を果たしており、創薬の半数以上が膜タンパク質をターゲットにしている。たとえばGタンパク質共役型受容体(GPCR)に関する製薬の世界市場規模は年間約600億ドルに上り、他にもイオンチャンネルやトランスポータなど、各種の膜タンパク質の機能や特性を解明することが、基礎研究のみならず次世代の創薬・医療分野における重要な課題となっている。これまでの検討によりマイクロ構造体にチャネルを形成する方法は確立している。申請者らは微小溶液ハンドリングや並列化が得意なMEMS技術に適した膜形成法の一つとして脂質単分子膜を接触させて簡単に人工細胞膜(リン脂質膜)形成が可能であることを見いだした。しかしながら接触法により形成した脂質膜は、液滴同士が融合し壊れることがあり、その安定性は不十分だった。そこでH23年度は脂質膜の安定性向上のため、単分子膜が接触する界面に微小孔を有するパリレンフィルムを配置することで安定性の向上を目指した。その結果、形成した脂質二分子膜は所望の膜たんぱく質を保持したまま二週間以上安定であり、チャネルシグナル計測も可能であった。
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