研究領域 | 揺らぎが機能を決める生命分子の科学 |
研究課題/領域番号 |
23107707
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新井 宗仁 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (90302801)
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キーワード | 生物物理 / 蛋白質 / フォールディング / 分子認識 / バイオテクノロジー / 天然変性蛋白質 |
研究概要 |
本年度はまず、天然変性蛋白質であるHIV-1 Tatの発現系を構築した後、野生型TatとTAR核酸との相互作用を、熱力学的、速度論的、構造学的に詳細に調べた。主な成果は次の通りである。 1.Tatの発現系の構築:TatのRNA結合部位を含む領域(37~72残基目、C37Wの変異を含む)を、Protein AのBドメイン及びHis-tagと連結し、pETベクターに組み込み、精製後にスロンビンでProtein Aを切断するというTatの発現系を構築した。これにより、大腸菌内での蛋白質発現量が向上し、Tatの精製も容易になり、以下の実験に十分な量の蛋白質を得られるようになった。 2.Tat-TAR相互作用の熱力学的解析:Tat(37-72)と核酸との結合を、蛍光滴定法および等温滴定型熱量計(ITC)を用いて測定した。その結果、結合の強さ(解離定数Kd)として4+/-1 nMという値を得た。これは、天然変性蛋白質としては比較的強い結合である。また、Tat-TAR結合の塩濃度依存性を測定した結果、高塩濃度で親和性が低下したことから、この結合における主要な相互作用は静電相互作用であることが明らかになった。一方、Tatによる核酸への非特異的結合などが見られたが、実験条件や解析方法などを工夫することにより、この問題を克服できることが示唆された。 3.TatによるTAR認識反応の速度論的解析:TatとTARの結合反応をストップトフロー蛍光法によって測定した。その結果、結合反応速度と解離速度は、それぞれ10^5M^(-1)s^(-1)と10^(-3)s^(-1)程度と見積もられた。これにより、Tat-TAR間の強い結合は、解離速度が遅いことに起因することが示唆された。 4.Tat-TAR複合体の立体構造解析:M9最小培地を用いて、[15N]ラベルしたTatを大量に調製した後、TARとの相互作用をNMR滴定法によって調べた。その結果、TARの滴定に伴って、HSQCでのTatのピーク位置が、fast exchangeによって連続的に移動するものと、slow exchangeによって不連続に移動するピークが混在しており、結合・解離反応におけるTatのダイナミクスは部位によって異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大腸菌を用いてTat蛋白質を大量発現し精製する段階において、いくつかの困難があった。それらの問題点を克服するために、当初の予定よりも時間がかかった。また、野生型HIV-1 Tatと核酸の相互作用を詳細に調べたところ、Tatによる核酸への非特異的結合などが見られ、当初予定していなかった困難が見られた。この問題は現在ほぼ解決しつつあるが、これを克服するために時間がかかった。
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今後の研究の推進方策 |
上記の問題点はほぼ解決しているので、24年度に引き続き、当初計画通りの研究を遂行していく予定である。
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