研究実績の概要 |
前年度までの研究では、生体内分子の溶媒和を理解する上で有用である、MC-MOZ法の高効率並列化に成功するとともに、排除体積を正しく補正することで精密な溶媒和自由エネルギーを得られる方法を提案した。今年度はこれまでに開発してきた方法(flexible-RISM)を踏まえつつ、構造揺らぎに関する研究を重点的に推進した。具体的には結合長と結合角を固定したn-アルカン(直鎖状分子)を対象として、構造分布関数を求めるための複数の方法を検討した。この系ではサイト間の距離は二面角のみの関数として表され、全ての二面角がトランス型を取る場合に末端間距離が最長となり、一次元分子内相関関数では鋭いピークとなる。一方それ以外の配座はとりうる数も増し、ピークもブロードとなる。 (1)三次元空間における構造揺らぎを記述するためのモデルを検討した。1,4-間の相関関数を重ね合わせることで、近似的に直鎖状分子の相関関数を記述することを試みた。 (2)系を構成する各二面角φに関する1変数の分布関数a(φ)を導入し、他の二面角については統計平均を取り、これらの積として全体の分布関数を表す。これを用いて再び平均場近似したa(φ)を求める。以下、これを自己無撞着になるまで繰り返す。 (3)1変数の分布関数a(φ)を得るためにGenerating関数法を用い、これらの積として全体の分布関数を表す。(2)と同様に自己無撞着になるまでこの操作を繰り返す。(2)および(3)はペンタンに適用し、特に前者についてはモンテカルロ法と良好に一致する結果が得られた。 また、これら3つのモデルの他に、flexible-RISMを無限希釈系に適用できるように拡張を行い、構造エントロピーの効果を含めた溶媒和自由エネルギーの評価を実現した。水中の直鎖ブタンの溶媒和自由エネルギーの温度変化は、既往の計算および実験値と比較しても良好な一致を示した。
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