研究領域 | 揺らぎが機能を決める生命分子の科学 |
研究課題/領域番号 |
23107717
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 重彦 京都大学, 理学研究科, 准教授 (70402758)
|
キーワード | pKa計算 / QM/MM / 緑色蛍光タンパク質 / バクテリオロドプシン / タンパク質膜挿入 |
研究概要 |
本研究は、タンパク質中のtitratableな酸性・塩基性残基やリガンド分子(TG)のpKaを計算する分子シミュレーションの手法を用いて、機能に関わるタンパク質の揺らぎ・構造変化とTGの荷電状態の相関の分子機構を解明することを目的とする。 本年度は以下の成果を得た。(1)Ab initio pKa計算手法の解析。QM/MM-RWFE-SCF法を用いてpKaを与える自由エネルギー計算法の開発を行った。まず、QM-MM間の相互作用の精度を上げるために、点電荷に多極子相互作用を加えた静電相互作用演算子の開発を行った。テスト計算として、titratableなアミノ酸側鎖の自由エネルギー極小構造及びその溶媒和分布を求めた。その結果、多極子相互作用を導入したことにより、孤立電子対への水素結合が劇的に改善することを確認した。(2)緑色蛍光タンパク質(GFP)における蛍光のpH依存性。GFPタンパク質のシミュレーション系を構築し、MDシミュレーションによる平衡化を行った。現在、QM/MM-RWFE-SCF法を用いて自由エネルギー最適化を行なっている。また、CASSCF法及びMRMP法を用いて励起及び蛍光エネルギーの計算を行った。(3)バクテリオロドプシン(bR)のプロトン収集アンテナの分子機構。膜中のbRのシミュレーション系の構築を行い、平衡化が終了した。現在、QM/MM-RWFE-SCF法による自由エネルギー最適化の準備中である。(4)mellitinの膜挿入における動的pKa変化。経路決定のために、steered MD及びアンブレラサンプリングを行なった。経路探索により、膜挿入を表す良い反応座標の一つを見出した。しかし、その他にも反応座標が必要であることがわかったため、更にその反応座標に対するsteered MDを行なっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究はそれぞれの課題について進行の差があるものの、概ね順調に進展している。(1)に関しては、実際のタンパク質系への適用が遅れているものの、多極子相互作用演算子の開発はほぼ完了しており、計画以上の進展が得られた。(2)についても、すでに励起・蛍光エネルギーの計算に着手している。(4)に関しては、必要な反応座標が増えたため、若干進行が遅れているものの、着実に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)に関しては、タンパク質(リゾチーム)への適用を進める。まず、現時点で確立している点電荷演算子を用いたQM/MM-RWFE-SCF計算を進め、その後、多極子相互作用演算子の適用へと進む。(2)に関しては、プロトン化状態の異なる状態に関しても計算を進め、pKaを決定している相互作用を同定し、変異体の設計を行う。(3)は、QM/MM-RWFE-SCF計算を行い、プロトン取り込み口の酸性残基のpKa計算を行う。(4)に関しては、適切な反応座標を決定し、膜挿入の自由エネルギープロファイルを求める。
|