酵母基本転写因子tfa2(TFIIE)のbeta-サブユニット(tfa2b)が溶液中で過渡的構造形成する現象についてNMRにより解析した.NOEを用いた解析では,tfa2bタンパク質が3つのヘリックス構造を形成することを明らかにしたが,さらに,その存在率について主鎖化学シフトに基づく解析を行った.解析の結果,構造形成状態の存在率は10%程度であり,観測された構造が過渡的に形成される不安定な構造であることを確認した.真空紫外CDでの解析でも同様な結果を得た.さらに過渡的構造形成機構を解明するために,3つのヘリックス構造の中心に位置するTrpをAlaに置換する変異を導入したところ,第1ヘリックスの構造形成のみが阻害された.また,このTrp変異体は,tfa2bのホモ2量体構造形成をも阻害した.以上の観測から,tfa2bがもつ3つのヘリックス構造は過渡的に形成されるが,それぞれのヘリックスは独立に構造形成していると考えることができる.一方,第1ヘリックスに関しては,ホモ2量体形成に伴ってヘリックス構造が誘導されると考えられる.このことは第一ヘリックスがアミノ酸配列上coiled-coil構造を形成する性質を示すことと対応している.また,13C/15N-filtered NOEの実験から,ホモ2量体ではサブユニット間で上記のトリプトファン残基どうしのNOEが観測されており,このトリプトファンを介して2量体構造が作られていると考えられる. 私達のこれまでの研究から,tfa2bはホモ二量体形成能を失うと転写因子Gal11との相互作用が失われることを明らかにしている.今回の研究から,基本転写因子tfa2bは,過渡的な構造形成を介して転写因子をリクルートする特徴的な機構が明らかになった.
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