研究概要 |
本研究の目的は、"細胞膜の揺らぎ"がヒトの正常造血、ウィルス感染症及び造血器腫瘍へ及ぼす影響を解明し、その成果を造血障害や造血器腫瘍の治療に応用することである。特に、HIV-1と腫瘍ウィルス(HHV-8,HTLV-1,HHV-8等)感染の造血系への影響及び造血器腫瘍に焦点を絞り、"細胞膜の揺らぎ(流動性の変化)"が、これらの細胞機能に及ぼす影響とその機序を解明する。そのために培養系と生体イメージング用に開発された免疫不全マウスを用いてヒト化マウス・ヒトウィルス感染症モデルマウス・ヒト造血器腫瘍モデルマウスを作成して解析を行っている。平成23年度は、Hybrid liposome (HL)とCepharanthine (CEP)による細胞膜流動性の変化とHIV-1感染への影響について検討した。その結果、HL添加により血球の細胞膜流動性は増加し、その結果HIV-1の細胞への融合が増幅されることが判明した。逆にCEP添加により細胞膜流動性は減少し、HIV-1の感染は抑制されたことから、細胞膜流動性の制御により、HIV-1感染制御が可能であることが示唆された。また、HHV-8感染を原因とする悪性リンパ腫であるPrimary effusion lymphoma (PEL)のマウスモデルを用いて、BerberineとDiethyldithiocarbamateがNF-kappaB抑制作用を介して抗PEL効果を有する事を証明した。PELは予後不良で従来の抗腫瘍薬に耐性を有する事から、NF-kappaB阻害薬の有用性が期待できる。また、成人T細胞性白血病やEBウィルス感染を原因とする悪性リンパ腫においてもNF-kappaBは活性化していることから、NF-kappaBを標的とする標的療法はこれらの血液悪性腫瘍にも有効であることが期待される。更に、ラクトアルブミンとオレイン酸の融合体であるHAMLETが、PELに有効であるという知見を得たので、その分子機構の詳細な解明を行う予定である。一方、生体イメージング用に新たに皮膚の薄い無毛高度免疫不全マウスを樹立した。本マウスを用いて生体イメージングによる造血器腫瘍の治療評価系を樹立する予定である。
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