血液細胞の細胞膜流動性は、ウィルス感染や腫瘍化により変化する事が知られている。そこで、細胞膜の揺らぎがヒトの正常造血、ウィルス感染及び造血器腫瘍へ及ぼす影響を解明し、その成果を造血障害や造血器腫瘍の治療に応用すること目的に研究を行った。 細胞膜の流動性に影響を及ぼす薬物として、①Hybrid Liposome (HL)、②Cepharanthine (CEP)、③HAMLET (human α-lactalbumin made lethal to tumor cells)に注目し、これらの薬物による細胞膜流動性の変化が血液細胞及び悪性腫瘍に及ぼす影響について解析した。 ①HLは、ヒト原発性滲出性悪性リンパ腫(Primary effusion lymphoma: PEL)細胞株に選択的に融合・蓄積することにより細胞膜の流動性が亢進し、PEL細胞にアポトーシスを誘導することが証明された。PELマウスモデルにHLを連日投与したところ腫瘍性腹水の高度の減少が認められたが、副作用は認められなかった。②CEPはタマサキツヅラフジの根から単離されたアルカロイドであり、細胞膜安定作用とNK-κBを有する。CEPは、胆管細胞癌の転移を抑制する事、膜安定化作用を介してHIV-1感染を抑制することを示した。③HAMLETは、部分変成α-lactalbuminとオレイン酸の複合体であり、腫瘍細胞に選択的に取り込まれて抗腫瘍効果を示す。HAMLETにより、細胞膜の流動性が増加し、腫瘍細胞にオートファジーとアポトーシスを誘導することを示した。 血液悪性腫瘍においては細胞膜流動性が亢進しており、膜流動性を急激に変化させることでこれらの腫瘍細胞はアポトーシスに陥ることが判明した。これらの薬剤はマウスを用いた動物実験でも安全性と有効性が確認され、今後の臨床応用が強く期待される。
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