公募研究
天然変性アミロイド蛋白質であるアルファーシヌクレインの安定同位体標識体を作成した。生理的条件下(pH7)の溶液中におけるモノマーの1H-15N HSQCスペクトルでは、個々のシグナルは独立して観測されるが、ほとんどが中央部分に集まっており、シグナルの分散度は低かった。このことより、この蛋白質は溶液中で天然変性していることが確認された。室温より低い温度では、個々のシグナルの強度はほぼ均一であり、典型的な1H-15N HSQCスペクトルを示したが、37℃など生理的な温度以上にすると、化学交換をするがゆえに、シグナル強度が明らかに下がり、測定の難しさを生じた。このような温度上昇における化学交換の性質は、天然変性蛋白質に特有なものかもしれない。一方CO(カルボニル炭素)関連のスペクトルを選択すると、そのような温度依存性の問題は存在しなかった。中性条件下で、実際にアルファーシヌクレインにアミロイド線維を作らせた。超音波によって、シヌクレイン線維の形成速度が速くなったことを確認した。次にできあがったアミロイド線維のNMRスペクトルを測定した。スペクトル中には予想以上に多くのシグナルが観測された。このことより、アミロイド線維を作らせる条件でも、反応は100%にまで完結せず、最終的には上清中にモノマーが一部残っていることが推測された。さらにこのモノマーとアミロイド線維の割合は一定であり、平衡状態になっていると考えられ、シヌクレインの場合には、モノマーは常に約20%の割合で存在しているように思われた。しかし、アミロイド線維のN端部分の柔軟な構造部分からのシグナルも、一部観測することができた。
3: やや遅れている
安定同位体標識のシヌクレインの大量作成に時間がかかったことより、実験が制約された。蛋白質の調整時に多くの沈澱が観測された。5月中旬にはさらに多くの蛋白質が仕上がる予定であり、夏までの近日中に多くの実験ができる予定である。またNMRチューブ内において、アミロイド線維を作らせる直前の条件に、モノマー状態の蛋白質を保つことに難しさがあった。一方、クエンチフローの対照実験として、100%アミロイドが生成された条件下でのNMRスペクトルが必要とされたが、上述のように上清中でのモノマーの存在のために取得が困難であった。
アルファーシヌクレインの天然変性状態の条件を保つために、シヌクレインと結合する薬剤との相互作用実験を行い、天然変性状態と結合状態の2状態を、NMRによって観測していく方針を考えている。観測に関しては、シグナルの化学シフト変化だけではなく、HD交換やCLEANEXの双方も用いて、化学シフトの環境の変化から、溶媒への露出度や水素結合、2次構造形成の変化も観測していく。このように薬剤結合による構造への影響と揺らぎ運動の変化を観測していきたい。またモノマーから毒性を持つオリゴマーへの構造変化などを中心に、HD交換やCLEANEXを用いて研究していくこと、さらにDMSO法もあわせて用いて、オリゴマー中の分子間結合部位や、毒性発生の機序、溶媒から埋もれている部位の観測を行う。
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J.Mol.Biol.
巻: 411 ページ: 248-263
10.1016/j.jmb.2011.05.028