本年度は、以下に述べる研究を行った。 1.蛍光寿命の揺らぎを計測する蛍光相関分光法(FCS)による生体分子のダイナミクス計測 我々が近年独自に開発した二次元蛍光相関分光法を用い、シトクロムcの酸性変性条件下での構造揺らぎを検討した。時間相関光子計数(TCSPC)システムを組み込んだ蛍光相関分光計を用いて得られた蛍光寿命相関データに基づき、二次元蛍光相関分光法を用いて定量的に解析することにより、各蛍光寿命成分間の相関を抽出した。その結果、マイクロ秒時間領域で複数の変性中間体を含むフォールディングスキームが得られた。 2.単一光子検出器のアフターパルス除去アルゴリズムの開発 FCSで検出器として通常用いられる単一光子アバランシェフォトダイオード(SPAD)は、光子検出による信号パルスの発生後数マイクロ秒以内にアフターパルスと呼ばれる偽の信号を確率的に発生させるため、この影響で蛍光相関関数が速い時間領域で大きく歪む現象が起こる。我々はパルス励起とTCSPC法を用いて相関信号の時間反転対称性を解析し、アフターパルスによる偽の信号を除去する方法を考案した。 3.単一光子検出器の時間軸変動の補正 SPADは時間分解蛍光測定のための高感度で優れたデバイスだが、その時間応答が計数率応答性を示すため、蛍光強度が揺らぐケースでは蛍光寿命の正確な決定が困難であった。我々はSPADの時間応答を検出光子の時間間隔と関連付けて解析し、検出時間のシフトが時間応答の計数率依存性の原因であること、このシフトの量が前の光子との検出時間間隔のみで決まることを見出した。このことを利用してSPADの時間応答の計数率依存性を補正する簡単な方法を提案した。
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