プリオン病及び蛋白質アミロイド化関連疾患において、アミロイドの構造は感染性や病態を決定する重要なファクターであることが示唆されている。しかしそのアミロイド多形形成のメカニズムは明らかではない。本研究では、酵母プリオンSup35をモデル蛋白質として用い、アミロイド多形形成のメカニズム解明に向け、アミロイド前駆蛋白質の揺らぎや部分構造に着目した核磁気共鳴法での解析を行った。その結果、アミロイド形成開始点と考えられる配列が二箇所に見つかった。それらは、CLEANEX-PM測定で比較的速い交換速度を示し、溶媒に露出した領域であった。また飽和移動差NMR測定では分子間の相互作用が観察でき、また常磁性緩和促進NMR測定で分かったSup35の部分構造領域の両端に位置していた。さらに多くのアミロイドに共通する構造であるクロスβ構造の形成に有利なアスパラギン残基がその領域に多く存在していた。 そこで、アミロイド形成開始点を変異体実験によって確認した。アミロイド形成開始点内のアスパラギン残基をアラニンに置換した変異体を複数作成し、そのアミロイド構造を調べたところ、コアの位置が移動する変異体がいくつか見つけることができた。 この結果から、分子内にアミロイド形成起点が複数存在し、環境や分子の状態により、どれか一つの開始点が選択されることがアミロイド多形を作り出すメカニズムの1つであることを掴んだ。
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