マクロラクタム抗生物質の天然型生合成マシナリーデータベースを拡充するため、ヒタチマイシン生産菌とSch 38518生産菌のドラフトゲノム解読を行なった。その結果、昨年度までに明らかにしたビセニスタチン、インセドニン、クレミマイシン生合成遺伝子クラスターとの共通的遺伝子と非天然型マシナリーのデザインに有用な経路特異的生合成遺伝子を見いだすことができた。また、特異生合成酵素の機能解析を進め、インセドニン生合成に特異的な新規β-グルタミン酸 β-脱炭酸酵素を解明することができた。また、ビセニスタチンのポリケチド合成酵素のチオエステラーゼドメインの基質特異性を検討し、天然物と同サイズの基質の大環状化を触媒することが明らかとなった。さらに、様々なβ-アミノ酸を化学合成し、クレミマイシン生産菌に投与した結果、期待に反し、非天然型のマクロラクタムはごく少量しか生産されなかった。この結果は、ゲートキーパーであるATP依存型リガーゼだけではなく、共通的に働くと考えている生合成酵素も高い特異性を有することを示唆する結果である。現在持ち合わせている知見だけでは、自由自在に非天然型生合成マシナリーを機能化するのは困難であり、さらなる酵素化学的な情報も集積化して検討する必要があることが分かった。 アミノグリコシド抗生物質生合成マシナリーに関しては、本抗生物質群の構造多様化に大きく関わると考えられるラジカルSAM酵素を中心に機能解析を進めた。その結果、ネオマイシンB生合成におけるラジカルSAM異性化酵素の詳細な反応機構が明らかとなった。また、トブラマイシン生合成におけるデオキシ化機構も特徴あるラジカルSAM酵素により触媒されることが分かった。従って、これら特異修飾酵素遺伝子を組み合わせた非天然型生合成マシナリーにより、新規アミノグリコシド抗生物質を創製できる可能性がある。
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