公募研究
植物が生産する多様なトリテルペノイドは、潜在的医薬品資源として重要な化合物群として知られている。本研究では、植物トリテルペノイドの生合成において、トリテルペノイドの共通前駆物質であるオキシドスクアレンから種々のトリテルペン骨格を生成するオキシドスクアレン環化酵素、並びに、トリテルペン骨格の酸化修飾を触媒し構造多様化に寄与するシトクロムP450酸化酵素遺伝子を様々な植物種から単離し、酵母細胞に導入することにより、多様な植物トリテルペノイドを効率良く生産する技術の確立を目指した。研究代表者らは、マメ科の薬用植物、カンゾウ(甘草)の主活性成分であり、肝炎治療剤として使用されるグリチルリチン(トリテルペノイド配糖体の一種)の生合成酵素(β-アミリン合成酵素、CYP88D6、およびCYP72A154)を酵母内で共発現させることで、グリチルリチンの非糖部に相当し、薬理活性本体と考えられているグリチルレチン酸を生成することに成功した。また、マメ科モデル植物であるタルウマゴヤシの遺伝子共発現解析手法を用いて、β-アミリンの28位炭素の酸化を触媒しオレアノール酸を生成するCYP716A12を同定した。また、CYP716A12はα-アミリンやルペオールといった別のトリテルペン骨格に対しても酸化活性を示し、それぞれ、ウルソール酸、およびベツリン酸を生成することを見出した。オレアノール酸およびウルソール酸は、抗炎症作用、抗酸化作用、抗高脂血症効果、抗腫瘍活性など様々な生理活性を有することが知られている。また、ベツリン酸については強い抗腫瘍活性の他、その誘導体であるPA-457がフェーズIIの臨床試験においてHIV治療薬として有効であることが示されている有用物質である。同時に、複数のP450遺伝子を様々に組み合わせて酵母に導入することにより、生成トリテルペノイドの多様化、また、植物体中ではレアな化合物の生成が可能であることを示した。
2: おおむね順調に進展している
トリテルペノイド生合成に関わる複数のP450遺伝子の単離に成功し、一部の成果については論文化を行なった。また、得られた酵素遺伝子を、様々な組み合せにおいて酵母内で共発現させることで、植物体中ではレアな化合物を主生成物として合成することに成功した。
各種オキシドスクアレン環化酵素と複数のP450遺伝子の組み合せ実験によるトリテルペノイド生成物の多様化実験を継続するとともに、これまでに単離したP450のホモログ単離と酵素機能解析により、新たなトリテルペン酸化活性を示す酵素の取得を目指す。また、天然には、多くのトリテルペノイドは配糖化されることでさらに構造が多様化することから、トリテルペノイド生合成関連配糖化酵素遺伝子の単離、ならびに、すでに作出したトリテルペン生産酵母への導入により、これまでに前例のない、「組換え酵母におけるトリテルペノイド配糖体(サポニン)のインビボ生産」にも挑戦する。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件)
The Plant Cell
巻: 23 ページ: 4112-4123
10.1105/tpc.110.082685
Plant Cell Physiology
巻: 52 ページ: 2050-2061
10.1093/pcp/pcr146
生物工学会誌
巻: 89 ページ: 656-659
BIO INDUSTRY
巻: 28 ページ: 81-83