研究概要 |
放線菌Streptomyces rochei7434AN4株は2つのポリケチド抗生物質ランカサイジン(LC)・ランカマイシン(LM)を生産する。また微生物ホルモンSRBを鍵物質としたLC・LM生産制御カスケードの存在も示唆された。本年度は(1)LM生合成におけるタイプ2型チオエステラーゼ遺伝子lkmEの機能解析,(2)SRBの単離・構造決定,に焦点を絞り研究を実施した。 (1)lkmE遺伝子破壊株を構築して代謝産物を調べたところ、親株と比較してLMの生産量は70%減少しており、さらに新規化合物の生成が認められた。新規化合物の化学構造をNMR,MSなどの分光機器で精密解析したところ、いずれも15-norランカマイシン誘導体であることが分かった。[3-^2H]3-methyl-2-oxobutyrateの取り込み実験を行い、15-norランカマイシン誘導体のスターター起源はバリンであることが明らかになった。さらに13位分岐側鎖の1-カルボキシエチル基の立体化学も、キラル重水素標識イソ酪酸の取り込み実験により明らかに出来た。以上によりLkmEは、LM生合成において誤って導入されたスターターユニットを加水分解して除去する役割をもつことが示唆された。 (2)SRBの単離・構造決定を行うため、200リットルスケールで培養し、各種クロマトグラフィーで精製した。高分解能質量分析により2つの活性成分の存在が示唆された。それらの構造をNMRで解析したところ、いずれもγ-butenolide骨格を有する新規シグナル分子であった。今まで知られている放線菌微生物ホルモンはγ-butyrolactone骨格であり、本成果によりシグナル分子の構造多様性を見出すことが出来た。さらに単離した化合物SRB1,SRB2を化学合成し、その構造を確認するとともに抗生物質生産誘導活性を調べた。その結果、天然型は20-50nMという低濃度でもLC,LM生産誘導活性を有しており、アルキル鎖の1'位水酸基の立体化学が生物活性に重要であることを明らかにした。
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