研究領域 | 高次π空間の創発と機能開発 |
研究課題/領域番号 |
23108701
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
関口 章 筑波大学, 数理物質系, 教授 (90143164)
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キーワード | ケイ素-ケイ素三重結合 / ケイ素カチオン種 / 高周期14族元素 / シジリン / π空間 / 非平面π結合 / N-ヘテロ環状カルベン / X線結晶構造解析 |
研究概要 |
ケイ素-ケイ素三重結合化合物ジシリンは炭素アセチレンに見られない特異なπ空間の創出と反応場を形成し、三重結合ケイ素化合物に特有な反応性を示すことを明らかにしてきた。特に、ジシリンと種々の有機小分子として、アルケンやアルキン、シリルシアニドとの反応でケイ素-ケイ素二重結合やケイ素-炭素二重結合を含む化合物を生成することを見出し、ジシリンが従来法では得難いケイ素不飽和結合化合物の良い前駆体となることを明らかしてきた。本年度は、ジシリンとアゾベンゼンとの反応を検討し、ケイ素-ケイ素結合が完全に切断された四員環ビラジカロイド誘導体を創製できることを見出した。この化合物は深紫色の非ケキュレー型の一重項ビラジカロイド化学種であり、四員環は平面構造で1、3位間のケイ素間には結合電子のない、一重項ビラジカル構造を有する特異な分子であることを明らかにするとともにその反応性も検討した。四塩化炭素から容易に塩素を引き抜くラジカル特有の反応性を示すとともにメタノールの付加反応を起こすなど低い最低被占有軌道を持つ化合物であることを明らかにした。また、AIM計算の結果もこの新規物質が非ケキュレー型の一重項ビラジカロイド化学種であることを示した。また、ジシリン-カルベン錯体を鍵化合物としてメチルトルフラートを用いたメチル化反応を検討し、ビニルカチオン型ケイ素カチオン種を黄色結晶として安定に合成した。その分子構造をX線結晶構造解析によって決定し、カチオン部分と対イオンとの相互作用の無いN-ヘテロ環状カルベンによって安定化したジシレニルカチオンであることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はジシリンとアゾベンゼンなどのヘテロ原子化合物の反応を重点的に検討し、ジシリンの特異なπ空間反応場を利用して従来全く合成不可能であった非ケキュレー型の一重項の四員環ビラジカロイド誘導体を創成できることを明らかにした。また、N-ヘテロ環状カルベンとの反応でジシリン/NHC錯体を合成し、そのメチル化反応により、ビニルカチオン型ケイ素カチオン種を黄色結晶として安定に合成することに成功した。それぞれアメリカ化学会誌J.Am.Chem.Soc.に速報として掲載されたことから本年度の研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ本研究課題は順調に進展しており、研究計画の大幅な変更等は必要ないと考えられる。三重結合ケイ素化合物ジシリンの特異なπ空間反応場を用いて、他の含窒素有機小分子であるイミン・アジド等への展開や、リン・アルミニウム等これまでジシリンとの反応を検討していない元素を含む有機小分子との反応を検討していく予定である。また、今回、合成した新規化合物であるジシアノジシレン及びSi2N2四員環ビラジカロイド化学種は特異な電子状態を持つことから、酸化還元電位の測定や種々の有機小分子との反応性の検討を行っていく予定である。さらに、ジシレニルカチオンからルイス酸などを用いてN-ヘテロ環状カルベンを脱離することによってフリーなジシレニルカチオン種の合成も検討する予定である。
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