ケイ素-ケイ素三重結合化合物ジシリンは、構造化学的にも反応化学的にも炭素アセチレンとは著しく異なるため特異なπ空間を創出し、炭素アセチレンには見られない新規な反応場を形成することを明らかにしてきた。直線構造のアセチレンとは対照的に、ジシリンの構造はトランスに折れ曲がり、π及びπ*軌道の縮退が解け、面外対称・面内非対称のπ及びπ*軌道を形成し、反応性が高く、従来法では得難いケイ素不飽和結合化合物の良い前駆体となることを明らかしてきた。本年度は、ヘテロ元素化合物の三重結合化合物ジシリンへの付加反応を理論的に検討しながら、詳細な検討を行った。ジシリンはアミンやチオールなどと容易に付加反応を起こし、従来合成の困難であったヘテロ元素の置換した二重結合ケイ素化合物を簡便かつ効率的に合成することが可能になった。1級または2級アミンとの反応ではアミノ置換ケイ素二重結合化合物が得られた。一方、立体的に小さなアルキルアミノ基の場合、窒素上の非共有電子対とケイ素二重結合とのπ共役が発現し、アミノ基の置換していないsp2ケイ素が非平面化することを構造解析による分子構造の解明と計算化学によって明らかにした。また、ヒドロホウ素化反応では、B-H結合がケイ素三重結合にアンチ付加することを見出し、アセチレンのヒドロホウ素化反応とは明らかに機構が異なることを明らかにした。これら付加反応はいずれも触媒を必要とせず、かつ副生成物を全く生じず、ケイ素三重結合への付加反応は、新しい含ケイ素π結合形成反応として有用であるあることを提示できた。
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