公募研究
本研究では、ヘム(鉄-ポルフィリン錯体)の側鎖として電子求引性が強いトリフルオロメチル基を導入し、ヘムのπ電子系に対して系統的な操作を行い、その電子操作が酸素貯蔵ヘムタンパク質ミオグロビン(Mb)の機能、ヒトの染色体末端のテロメア部位の繰返し配列の基本単位により形成される四重鎖DNAとヘムから成る"ヘム-DNA複合体"の安定性とヘム-DNA複合体のベルオキシダーゼ活性などに与える影響を解析した。共鳴ラマン分光法により計測した伸縮振動数に基づいて、ヘムπ電子密度の変化がMbにおけるヘム鉄と酸素分子や一酸化炭素との結合強度に与える影響を解明し、それぞれの外部配位子の結合反応の動力学的データとの関係を解明することに成功した。また、ヘム-DNA複合体の安定性は、ヘムπ電子密度の減少に伴い低下すること、それはヘム鉄の正味の電荷とG-カルテットを形成するグアニンのカルボニル炭素原子の電子との静電的相互作用の不安定化に起因することを明らかにした。さらに、ヘムのペルオキシダーゼ活性は、四重鎖DNAとの複合体の形成により増大すること、そして、ヘム-DNA複合体のペルオキシダーゼ活性はヘム鉄の電子密度の減少に伴い低下することも明らかにした。このように、ヘムπ電子系への系統的電子操作を通して,様々な生体π空間の自己組織化により生成する高次π系生体分子に対してストラテジックリサーチを行うことにより、生体分子の機能と構造の相関関係の調節におけるヘムπ電子の役割を解明し、生体分子内部でヘムπ電子系の機能が調節される分子機構の解明に役立つ知見を得ることに成功した。研究成果は、π電子の性質に基づいて生体分子の機能を定量的に理解するための生体π空間電子論の基盤の確立に寄与すると共に、タンパク質工学等の発展にも貢献することが期待される。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に記載されている通り、生体分子内部でヘムπ電子系の機能が調節される分子機構の解明に役立つ研究成果を得ることに成功した。今後の研究により、高次π空間の構造化学的性質を活用してヘムに新規生体機能を付与する分子設計指針を提唱する予定である。
トリフルオロメチル基が側鎖として導入されたヘムが組み込まれたミオグロビンや、それらヘムと四重鎖DNAとの複合体の立体構造をX線、NMRおよび各種分光法により解析すると共に、ヘムπ電子系に対する電子操作がヘムの機能に与える影響を解明する研究を通して、ヘムπ電子系の機能調節のための分子設計原理を発見する研究を推進させる
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