独自に開発した炭素架橋フェニレンビニレン化合物(COPV)の強固な平面構造に由来する特異な物性とその応用について研究を行った.具体的には,色素増感太陽電池への応用ならびに長距離電子移動系の構築を行った. COPVにアリールアミノ基とシアノアクリル酸部位を有するD-π-A型の誘導体を合成し,それを増感剤とした色素増感太陽電池を作製・評価したところ,光電変換効率は最高7.54%であった.ルテニウム等の希少元素を含まない色素としては良好な効率である.また,開放電圧は0.9V程度と高く,フィルファクターも0.77程度の高い値を示した.これは,分子の構造に由来するものと考えられる. また,長距離電子移動系については,亜鉛ポルフィリン(ZnP)とフラーレンC60を連結したZnP-COPVn-C60(n = 1-3)を合成し,光誘起電子移動によって検証した.定常状態の紫外可視吸収スペクトルではZnPとC60のCT吸収帯が観測され,対応する非架橋体に比べて大きな電子的相関を有することを確認した.極性溶媒中では蛍光寿命および過渡吸収スペクトル測定から,電荷分離および電荷再結合速度は両プロセスとも対応する非架橋体に比べてそれぞれ10倍,1000倍程度加速されていることが明らかとなった.電子移動速度の温度依存性が極めて小さいことから,機構としては超交換相互作用が示唆される.また,分子長依存性から見積もった減衰係数(β)はそれぞれβ(CS) = 0.055 A-1,β(CR) = 0.044 A-1と,超交換相互作用による電子移動としては極めて小さな値を示すなど,炭素架橋による長距離電子移動の効率化を確認した.
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