ジブロモジピリンニッケル錯体に対してトリフェニルホスフィンの存在下、塩化ニッケルと亜鉛文末から調製した低原子価ニッケルを作用させると、分子内ホモカップリング反応によりノルコロールニッケル錯体が収率よく生成することを見いだした。この反応は高収率かつ操作が容易なので、反応のスケールアップが可能であり、グラムスケール合成を行うことができた。従来、ノルコロールは不安定であるとされており、これまで単離されたことはなかったが、合成したノルコロールニッケル錯体は空気中室温で安定であった。X線構造解析により、ノルコロールニッケル錯体高い平面性をもつことを明らかにした。さらに、1H NMRにおいて、ピロール部位のプロトンが1.45~1.60 ppmという高磁場領域に観測された。このことは、ノルコロールニッケル錯体が明確な反芳香族性をもつことを示す。DFT法による分子軌道計算からもノルコロールニッケル錯体の強い反芳香族性が明らかとなった。 さらに、ノルコロールニッケル錯体の反応性についても検討した。ノルコロールニッケル錯体を酸素下で加熱すると酸化するとノルコロールニッケル錯体に1つの酸素原子が挿入し、芳香族性のオキサコロールニッケル錯体が生成することも明らかにした。また、ノルコロールニッケル錯体に立体的に保護された安定シリレンを反応させるとピロール部分にシリレンが挿入し、六員環へと環拡大した含ケイ素新規ポルフィリン類縁体が高収率で得られた。この化合物は近赤外領域に渡る幅広い吸収をもつことが明らかになった。
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