研究領域 | 高次π空間の創発と機能開発 |
研究課題/領域番号 |
23108711
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川井 清彦 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (50314422)
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キーワード | DNA / 分子ワイヤー / 光電荷分離 / 光電子移動 |
研究概要 |
正電荷(ホール)移動のさらなる高速化を達成することによる、DNA分子ワイヤー構築を目指し、当該年度はG-C、A-T塩基対間のHOMOレベルギャップだけでなく、グアニン(G)、アデニン(A)の各塩基のHOMOに着目し、各塩基のHOMOレベルギャップを縮小したDNAを構築し、過渡吸収測定を用いてホール移動速度を評価した。具体的には、アデニンの誘導体として、アデニン、8-ブロモアデニン、アミノプリン、ジアミノプリンを選び、またグアニンの誘導体として、グアニン、イノシン、8-ブロモグアニンを用いた。アデニン誘導体、グアニン誘導体について、種々の組み合わせを有するDNAを合成した。DFT計算により、これらDNAにおいて、HOMOレベルギャップが0-0.78eV変化することがわかった。ホール移動速度を測定するため、DNAの片方の末端に光照射によりDNA中にホールを注入可能なナフタルイミド(NI)を結合し、またDNAのもう片方の末端にはホールのアクセプターとしてフェノチアジン(PTZ)を修飾した。NIを355nmナノ秒YAGレーザーを用いて励起し、ホールがDNA内を移動しもう片方の末端に達する過程を、PTZラジカルカチオンの生成速度より評価した。ホール移動速度は、核酸塩基間のHOMOレベルギャップが小さいほど速く、0-0.78eVの変化により、電荷移動速度が1,500倍変化することを見出した。また、ホール移動速度がホールキャリアーとなる核酸塩基のHOMOレベルに依存するのではなく、HOMOレベルギャップの縮小がホール移動速度の高速化につながることを明らかにした。これにより、優れたDNA分子ワイヤーを作るための指針が得られ、また、DNAを用いることにより種々の導電性(抵抗)を有する分子ワイヤーの構築が可能であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ計画通りに研究が進展し、研究計画にそのまま沿った研究成果を化学のトップジャーナルであるJournal of the American Chemical Societyに報告することが出来た。今回は天然の核酸塩基グアニン、アデニンの改変を行なったが、理想的には残りの2塩基、チミン、シトシンの誘導体についても成功を収めたかったものの、申請書に書いた核酸塩基が酸化分解してしまい分子ワイヤーとして機能しなかったのが残念であった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究計画に従い、DNAの糖-リン酸バックボーンを有機化学的に改変したLocked Nucleic Acids(LNA)を用いて、らせんねじれ角を減少することにより、塩基対がより効率よくπスタックしたDNAを構築し、DNA内ホール移動のさらなる高速化を目指す。23年度の研究により、ホール移動がDNAの局所的ゆらぎに大きく影響を受けることを示唆する結果が得られたため、LNAがDNAの構造を剛直することを鑑みて、グアニンとの間の水素結合数が3から2へと変更しDNAをより柔軟にするシトシンの誘導体、5-メチルデオキシゼブラリンを修飾したDNAついても検討する。
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