研究領域 | 高次π空間の創発と機能開発 |
研究課題/領域番号 |
23108712
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
柳 久雄 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 教授 (00220179)
|
キーワード | 高性能レーザー / 分子性固体 / 協同的発光増幅現象 / パルス型遅延発光 / 誘導共鳴ラマン散乱 |
研究概要 |
(チオフェン/フェニレン)コオリゴマー(TPCO)の低次元単結晶において、協同的発光現象であると予想されるパルス型遅延発光と誘導共鳴ラマン散乱の発生起源を明らかにするため、短パルス光源を用いた時間分解分光実験を行い、以下の研究成果を得た。 TPCO分子として、分子鎖両末端にメトキシ基を有する2,5-bis(4'-methoxy-biphenyl-4-yl)thiophene(BPlT-OMe)を用いた。X線結晶構造解析により、BPIT-OMeはこれまでの無置換のTPCOの単斜晶系とは異なり、分子軸が結晶面に対して完全に直立した斜方晶系の薄板状結晶を形成することがわかった。この結晶を、Nd:YAGパルスレーザーで光励起した結果、500nm付近の0-2帯が増幅した自然増幅発光(ASE)スペクトルに重なって、結晶の両端面がファブリーペロー(F-P)共振器として働いたレーザー発振が観測された。このとき、ASE閾値以下の励起密度において、発振モードを伴った明瞭なスペクトル分裂が観測された。その起源を調べるため、フェムト秒パルスレーザーを用いた時間分解分光実験を行った結果、弱励起密度においては寿命~1 ns程度の自然蛍光の特徴を示したのに対して、スペクトル分裂が観測される励起密度範囲において時間原点から最大300ps遅延したパルス型発光が観測された。さらに励起密度を上げていくと、パルス状のピーク幅が減少しながら時間遅れが短くなった。このようなパルス型遅延発光は、これまでに無置換TPCOの単斜晶系結晶においても観測されてきたが、今回は300psに達する最も長い遅延時間が得られた。BP1T-OMe結晶中では、すべての分子が結晶面に対して直立したH会合体構造を有しており、完全一軸配向した分子配列により励起子の緩和過程において分子間に長距離相関が生じている可能性があることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回、分子鎖両末端にメトキシ基を有するBPIT-OMeの単結晶を作製して時間分解分光測定を行った結果、これまでで最大の遅延時間をもつパルス型発光を観測し、他のTPCO結晶とは異なる斜方晶中でのH会合体形成による分子相関が協同的発光現象に影響を及ぼしていることを示唆する重要な知見が得られた。BP1T-OMe単結晶を用いた誘導共鳴ラマン散乱の観測も進めており、結晶中でのコヒレーントな分子振動が励起状態の位相緩和に関与している可能性が示されつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度、分子末端に置換機を導入したTPCOの新しい単結晶において、パルス型発光の発生起源を解明する重要な知見が得られたので、今後さらに異なる置換基や対象性をもつTPCO分子を用いて同様の実験を進め、結晶構造や結晶内での分子パッキングおよび分子配向がパルス型遅延発光と誘導共鳴ラマン散乱に及ぼす影響を詳細に調べる。また、TPCO単結晶の次元性や結晶サイズも長距離分子相関による協同的発光現象に影響を与えることが予想されるので、気相成長や真空蒸着等の他の結晶成長法を検討するとともに、結晶のへき開やレーザー加工による結晶形態とサイズの制御を試みる。
|