研究概要 |
研究の目的: 将来の科学・技術を支える新しい研究領域を切り拓く戦略の一つは,これまで人類が気付いていない未開拓な分子構造とその機能を明らかにすることである。つまり,新しい分子構造に基づく新規な機能を有する物質群を創り,新たな物質科学の領域を創出することである。その研究目的を達成するには,分子を構成する原子の空間的配置を決定する結合様式に新しい概念を導入し,その新概念を実証する実験的研究が必要である。そこで,分子の構成原子の空間的配置を決定する結合様式に新しい概念「π結合のみによる原子と原子の結びつき(π単結合)」を提案し,新学術領域内での共同研究を進めながら,その新概念を実証する新しい構造を有する物質群の創製を実施する。そのπ単結合物質は可視光部位に強い吸収を持つことを見いだしており,本研究では,その研究成果をさらに発展させ,π単結合物質が持つ新規な機能に関する研究に遭進する。 本年度(~平成24年3月31日)の研究成果: 平成23年度の研究では,我々がこれまでに見出してきた1,3-ビラジカルのスピン多重度制御に及ぼす置換基Xの効果に基づくポリラジカル種のスピン整列を行い,22年度から実施しているπ単結合の集積化を行った。具体的には,一重項カップラーとしてパラベンゾキノン(PBQ)骨格を有する分子と三重項カップラーとしてメタベンゾキノン(MBQ)骨格を有する分子群の発生をアゾ前駆体から行い,未開拓分子構造の構築と物性評価を実施した。前駆体アゾ化合物の合成は,これまで我々が見出してきた手法(JACS, 2000, 122, 2019-2026)に従って行い,新たな新規π電子化合物の合成に成功した。 平成21~22年度の公募研究において,π単結合性化合物の寿命に及ぼすアルコキシ基(OR)の効果について精査した(JACS, submitted)。平成23年度は,アルコキシ基の立体的な嵩高さが大きくなるにつれて,寿命が飛躍的に延びることを明らかにした。具体的には,アルコキシ基をデンドリマー化したビラジカルの発生に関する研究をスタートし,更なるπ単結合化学種の長寿命化を行い,5μsまで長寿命化に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,π単結合化合物の寿命に及ぼすデンドリマー化の効果を精査するとともに,レドックス反応部位を持つπ単結合化合物の合成も実施する。レドックス反応部位を持つπ単結合性化合物を発生する意図は,レドックス部位の酸化還元により発生するスピン整列により,分子スピントロニクス分野(CEJ2009,15,11210-11220)への応用が期待されるためである。
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