最近、開殻π電子系分子が、分子性磁石、光電導性、二次電池の活物質等の新たなエレクトロニクス材料として注目を浴びている。本研究者らは非常に大きな正の交換相互作用を有する三重項π電子系分子の合成・単離に成功してきた。これら開発した開殻π電子系を利用することで、スピン情報を制御したエレクトロニクス・スピントロニクス材料となると本研究者は考えている。本研究では、これまでの研究を発展した、(課題 1) 超強磁性的相互作用を持つ高スピンπ電子系の創成、(課題 2) 新規トリメチレンメタン型高スピンπ電子系の創成、(課題 3) 酸化還元による高スピンπ電子系の創成、の研究を行っている。本年度の成果を以下に示す。 課題 1 に関して、本研究者らが設計した異種ニトロキシド連結体の合成法を鍵として分子内の交換相互作用 J が +1000 K を有する安定な基底三重項分子の合成、単離、結晶化に成功した。 課題 2 に関して、ホウ素に二つまたは三つの電子豊富なπ電子系を導入した分子の合成に成功した。さらに、化学酸化することでラジカルカチオン種の合成に成功した。ジラジカルも発生には成功しなかったものの、ラジカルカチオンの性質に関する論文が Angew. Chem. Int. Ed. に掲載された。 課題 3 に関して、トリオキシトリフェニルアミンに三つのニトロキシドラジカルを導入した分子において、分子内の交換相互作用が、中性状態での反強磁性的、ラジカルカチオン状態で強磁性的となる新しいスピンスイッチ系の構築に成功した。また、ジヒドロフェナジンに二つのニトロニルニトロキシドラジカルを導入した系において、そのトリラジカルカチオン体の合成、単離、結晶化に成功した。
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