研究実績の概要 |
π電子に囲まれた空間、いわゆる“π空間”をもつ構造は、フラーレン類に限らず、カーボンナノチューブやカーボンナノホーンなど、ナノテクノロジーへの応用が期待される炭素新物質のもつ特異な構造である。申請者は、これまでの研究背景をもとに、これまでにない非平面状の“π空間”をもつ化合物を構築し、曲面状の共役系間に働く相互作用の本質を明らかにし、さらに機能性超分子システムへ展開することを目的として研究を行った。そのなかで、π拡張フルオレンの一種である非平面構造を持つテトラベンゾフルオレン(TBF)の17,17-ジアルキル体が固体(粉末)状態で高い青色蛍光発光特性(量子収率:R =n-pentyl 100%)を示すことを見出した。このジアルキルTBFは3,14位を選択に臭素化することができ、鈴木‐宮浦カップリングにより種々のアリール基を導入することができた。このジアリール体はパラ位の官能基によって発光波長が変化し、いずれも強い蛍光発光を示した。特にジ-p-ニトロ体は溶媒を変えることで蛍光波長が青から赤まで変化し、フルカラーの蛍光を示した。また極性溶媒中では蛍光が消光されるが、含水THF中で水分量が70%を超えると橙色の蛍光が再生する特異なCrystallization Induced Emissionを示した。有機EL素子として、単一物質での白色発光が期待され、今後検討する予定である。またTBFから17-位の酸化によるケトンの合成、フルバレン類の構築、t-ブチル化によりテトラ-t-ブチル体の合成などを行った。特に二量体構造をもつフルバレンを安定な青色固体として得ることができ、高い電子授受能力を持つことを電気化学的測定により確認した。N-型有機半導体としての性質が期待される。
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