本年度は以下のような研究を行った。 [1]これまで、ナノギャップを持つ金属ナノ構造で構成された光アンテナと分子の量子力学的結合モードの干渉効果により、分子に光エネルギーが集中するエネルギー透過現象をコヒーレント光入射の場合に明らかにしていたが、本年度これが単一フォトンパルスに対しても起こることを理論的に明らかにした。また、これが起こる条件は、入射フォトンパルスの長さが、光アンテナと分子の結合定数で決まる結合モードの立ち上がり時間より長ければよいことが分かった。従って、エネルギー透過現象は入射光の古典的コヒーレンスには直接に関係しないことを示すことが出来た。 [2]誘電率に非対角項がある磁性誘電体の集合系に対する光学応答の計算法を多重極散乱理論におけるT行列法及びvector-KKR法などを基に構築した。これによりコットンームートン効果を有するユニットの配列系が入射ビームの伝播方向にどのように影響するかを調べることが出来るようになった。 [3] 光アンテナと分子の量子力学的結合系を強励起することによって、二準位分子系に反転分布を形成できることを明らかにした。またこのことは励起光と出力光が異なる波長変換的に起こることも分かった。このような系の配列系を実現することによって将来、インコヒーレントーコヒーレント変換が可能になることを示唆する重要な結果である。
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