研究領域 | 海底下の大河:地球規模の海洋地殻中の移流と生物地球化学作用 |
研究課題/領域番号 |
23109702
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
中村 謙太郎 独立行政法人海洋研究開発機構, システム地球ラボ, 研究員 (40512083)
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キーワード | 海底熱水系 / ミキシングゾーン / 熱水生態系 / 熱力学シミュレーション / 代謝エネルギー |
研究概要 |
本研究は、熱水-海水混合域でのミキシングプロセスを、熱力学モデルを用いてシミュレートし、それを観測データと比較・検証することで、以下の3つの課題を明らかにすることを目的としている:(1)エンドメンバー熱水組成のバリエーションが混合流体の化学組成に与える影響、(2)ミキシングゾーンにおける鉱物沈殿反応が混合流体の化学組成に与える影響、(3)熱伝導冷却による熱水温度低下が混合流体の化学組成および他のミキシングゾーンプロセスに及ぼす影響。本年度は、このうち(1)と(2)について研究を進めた。 (1)ホストとなる岩石の種類によらず、エンドメンバー熱水中の硫化水素濃度は高い。そのため、混合流体中の硫化水素濃度もまた、あらゆる混合比において高い濃度を示す。一方、エンドメンバー熱水の水素は、超マフィック岩でのみ高い値を示し、またメタンは堆積物の関与する熱水系でのみ高い傾向がある。この結果、熱水から代謝反応によって取り出せるエネルギーは、超マフィック岩ホスト熱水では水素酸化反応が、堆積物ホスト熱水ではメタン酸化反応が最も大きい。一方、硫黄酸化反応のエネルギーはすべてのタイプの熱水で概ね等しい。そのため、超マフィック岩と堆積物ホスト熱水以外では、相対的に硫黄酸化反応が最も有利な代謝反応となる。 (2)酸性岩にホストするタイプの熱水は、他のタイプに比べて鉄の濃度が高い傾向がある。これは、マグマからの亜硫酸ガスのインプットが多いためであると考えられる。単純ミキシングモデルでは、鉄酸化反応のエネルギーが硫黄酸化反応のそれを上回ることはない。しかし、ミキシングの際に硫化鉄の沈殿が起こると仮定すると、熱水端成分の鉄/硫化水素比0.5以上の熱水は、高混合比(=低温)領域において、鉄酸化反応のエネルギーが硫黄酸化反応のそれを上回ることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
検証すべき3つのモデルのうち、2つを順調に終了し、良好な結果を得ている。また、その一部は論文として公表することもできた。研究は、当初計画通りに順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の2点について研究を進めていく計画である。 (1)鉄含有量の多い酸性岩ホスト熱水について、エンドメンバーの鉄/硫化水素比が高混合比の低温熱水の組成とどのような対応関係にあるのかを、実際の観測データから検証する。また、硫化鉄沈殿による鉄/硫化水素比の上昇が、鉄酸化バクテリアの出現にどのような影響を与えているのかについても検討する。 (2)熱伝導冷却による熱水温度低下が、混合流体の化学組成および他のミキシングゾーンプロセスに及ぼす影響を考察する。このタイプのミキシングゾーンプロセスは、海底下で熱水溜りをつくるような熱水系において、重要な役割を果たしている可能性がある。
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