研究実績の概要 |
樹上突起スパインはシナプスネットワークに必須の構造である。精神遅滞患者の死後脳においてはスパインの形態に異常がみられる。私達はこれまで、精神疾患のスパイン形態異常が起こる原因として、CaMKII活性異常が起こることを明らかとしてきた。さらに、CaMKII活性異常はCaMKIIを脱リン酸化するPP1のCaMKII制御機構の破綻によることも報告してきた。これまでの研究では、CaMKII/PP1バランスの異常はシナプス後肥厚部において引き起こされると考えられてきた。しかしながら、今回の私達の研究結果ではCaMKII/PP1活性バランスの破綻が神経細胞シナプスだけでなく、神経細胞核内でも起こることが示唆された。私達は、CaMKIIδ3が核移行シグナルNLSを持ち核内に局在すること、核内のCaMKIIδ3は脳由来神経栄養因子BDNFの発現に関与することを明らかにした。神経芽細胞腫neuro-2aにおけるCaMKIIδ3の細胞内局在は細胞質と核の両方で見られた。しかしながら、PP1を共発現させることで、CaMKIIδ3は核内にのみ局在が認められた。また、 CaMKIIδ3のNLSに存在するSer332をAlaに変異したCaMKIIδ3は核内にのみ局在が見られることから、PP1はCaMKIIδ3のSer332を脱リン酸化することで、CaMKIIδ3の核内移行を促進する可能性が示唆された。さらに、CaMKII活性測定を行ったところ、CaMKIIδ3, PP1共発現細胞では核画分において自己リン酸化型CaMKII活性が有意に上昇すること、CaMKIIδ3(Ser332Ala)ではその上昇が見られないことが明らかとなった。これらの結果は、CaMKIIδ3(Ser332)の脱リン酸化は核内移行に関与し、自己リン酸化型 CaMKII の核内移行には PP1が必要であることが示唆された。
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