2名の家族性パーキンソン病(PARK2)患者の皮膚より樹立したヒトiPS細胞から、神経幹細胞、ニューロンへと分化誘導してその表現型解析を行った。まず、ドパミン作動性ニューロンへの分化誘導効率を検討したところ、健常者、患者由来iPS細胞で差は見られなかった。一方で、患者由来ニューロンでは、還元型グルタチオンレベルが低下し、酸化ストレスマーカーである、DCFH-DAの上昇がみられたことから、酸化ストレスが亢進していると考えらえられた。次に、PARK2の原因遺伝子であるParkinが、障害されたミトコンドリアに選択的に集積し、オートファジーに関与することが知られていることから、ミトコンドリア脱共役剤であるCCCPを添加して、ミトコンドリアの動態を解析した。その結果、健常者iPS細胞から誘導したニューロンでは、CCCP処理によりCIII core-1陽性のミトコンドリアが速やかに消失したのに対し、患者iPS細胞由来ニューロンでは、CCCPによるミトコンドリアの消失がみられなかった。さらに、電子顕微鏡解析により、ミトコンドリア形態の異常も観察されたことから、患者iPS細胞由来ニューロンでは、オートファジーによるミトコンドリア恒常性維持機構が障害されていると考えられた。 また、2名の患者iPS細胞由来ニューロンと、一人目の患者剖検脳、二人目の患者の父(同じPARK2患者)の剖検脳を用いて、Lewy小体を構成するalpha-Syncleinの解析を行ったところ、一人目の患者由来ニューロンではalpha-Syncleinの蓄積がみられ、剖検脳ではLewy小体がみられたのに対し、二人目の患者由来ニューロンおよび父親の剖検脳では、これらの所見は見られなかった。これらの結果から、iPS細胞由来ニューロンは、患者脳における病態をよく反映していると考えられた。
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