研究概要 |
成体マウスに抗うつ薬フルオキセチン(FLX)を4週間投与して海馬苔状線維シナプスの表現型変化を誘導した。海馬スライス標本に電気生理学的手法を適用し、シナプス表現型変化の有無、及びドーパミン、セロトニンによるシナプス伝達の修飾を検討した。 1.FLXの慢性投与によって生じる、ドーパミンとセロトニンによるシナプス修飾の増強について詳細な解析を行った。中枢セロトニンの枯渇によってFLXの効果は消失したが、5-HT4受容体欠損マウスではドーパミン修飾の増強はほぼ正常に誘導された。オートラジオグラフィによって受容体の発現量を検討したところ、ドーパミンD1様受容体の発現が海馬特異的に上昇していたが、セロトニン5-HT4受容体の発現はむしろ減少傾向が見られた(Kobayashi et al.,2012,Neuropsychopharmacology)。これらモノアミン修飾の増強には受容体発現上昇と下流のcAMPシグナルの増強の両者が関与すると考えられる。 2.cAMP合成を活性化する薬物の投与を検討したところ、FLX投与群とコントロール群で大きな差は見られなかった。従って、cAMP合成酵素の発現上昇やcAMP感受性の変化などはあまり関与しないと考えられる。 3.脳室内にcAMP合成を活性化する薬物を投与したところ、シナプス表現型が変化する傾向が見られた。 4.グリア細胞毒やグリア細胞を活性化する薬物の効果を検討したが、現在までに明らかな効果は見られていない。 5.FLXによるシナプス表現型変化誘導後の海馬歯状回のトランスクリプトーム解析を行った。同様の解析をシナプス表現型変化が抑制されている5-HT4受容体欠損マウスでも行った。これらの解析結果を基にシナプス表現型変化に関与する候補分子を検討している。 6.シナプス表現型変化に対する関与が予想される酵素等の阻害薬の効果の検討を開始した。
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