研究概要 |
研究代表者は、これまでに神経変性疾患の病態に非神経細胞であるグリア細胞が積極的に関与することを明らかにしてきた。本研究では筋萎縮性側索硬化症(ALS)を病態モデルシステムとして、神経細胞とグリア細胞における細胞間ネットワーク調節機構の解明と、それに立脚したALSの疾患進行を遅延させる治療法開発を遂行し、神経変性疾患に対する新たな研究アプローチを開拓することを目的とする。今年度はグリア細胞の応答調節を研究する目的で、ALSモデルである変異SOD1マウスを用いて、ミクログリアの活性化様式について一部検証した。末梢マクロファージと同様に、近年神経系においてもミクログリア活性化は、細胞障害性(M1)と組織保護的(M2)の両面性があると考えられつつある。M1 microgliaは、TNFαなどの炎症性サイトカイン、活性酸素、NOなど細胞傷害性分子の放出を特徴とする細胞傷害性の活性化グリアとして従来から知られているが、M2 microgliaは、IL-4やTGF-βなどにより誘導され、神経栄養因子放出、炎症の軽減などの機能が知られている。変異SOD1マウスでは、発症期からM1 microgliaから放出されるTNFα,IL-1βなどの炎症性サイトカインの発現上昇がみられ、疾患進行とともにその発現はさらに上昇した。一方、細胞保護性と考えられるM2 microgliaに由来する分子(Arginaseなど)には有意な変動がみられないものが多かった。M1/M2への誘導因子のなかで抑制性サイトカインとしての機能が知られるTGF-β1は終末期において発現上昇が見られた。現時点までに得られたデータからは、ALSモデルの脊髄病巣では細胞障害性であるM1 microgliaが優位であり、M2 microgliaは非常に少ないと考えられる。
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