結節性硬化症は母斑症の一種であり、中枢神経症状としててんかん・精神発達遅滞・自閉症などを高頻度に起こすことが知られている。原因遺伝子はTSC1あるいはTSC2であり、その分子メカニズムとして、「TSC遺伝子の変異により、TSCが制御するRhebのGTPaseが不活化され、下流のmTORが活性化される」機構が考えられている。さらに、TSC2に変異のあるEkerラットでは、培養ニューロンのスパイン形成が遅れている。発達障害において、樹状突起スパインの形成不全や形態異常が多くの研究者から報告されており、本課題では結節性硬化症におけるスパイン形成不全のメカニズムを明らかにする。 1)結節性硬化症に関連するスパイン制御分子の同定:Ekerラットのシナプトソーム分画を調整し、野生型と比べて特異的に増加している蛋白質を質量分析により同定した。 2)TSC2-Rhebによるミトコンドリア制御:同定した蛋白質がすべてミトコンドリア関連蛋白質(TCA回路酵素、電子伝達系複合体、クレアチンキナーゼなど)であったことから、結節性硬化症においてミトコンドリアの機能亢進あるいは増加が考えられた。そこで、dsRed2-Mito遺伝子導入あるいはMito-Red標識により、培養ニューロンのミトコンドリアを可視化した。その結果、結節性硬化症ニューロンの樹状突起ミトコンドリアが増加していることが明らかになった。 3)ミトコンドリアを介するスパイン形成障害機構:次に、ATPase εサブユニットをCFPとYFPで挟んだFRETベクターを用いて、樹状突起内のATPを可視化したところ、結節性硬化症・野生型ともにミトコンドリア近傍のATP濃度が最も高かった。また、結節性硬化症のATP FRET強度が野生型より強いことから、結節性硬化症ではATPがより多く作られていることが確認できた。
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