イハラてんかんラット(IER; Ihara Epileptic Rat)」は生後3~5ヶ月からてんかん症状を呈し約一年で死に至る原因不明の自然発症ラット突然変異体であり、「精神遅滞症状が先行し、その後てんかんが生じるヒト疾患」の良いモデル動物になる。IERのてんかん発作前の脳についてさらに詳細な解析を行った。 ゴルジ染色によって、大脳皮質のV層神経細胞で、樹状突起の側方への進展が障害されているということが認められた。さらに、海馬初代培養では、神経突起の進展と分岐が障害されていた。また、扁桃体における抑制性神経細胞の分布に異常があるということ、そしてその神経突起が異常な形態をしているということがわかった。つまりこのラットでは、扁桃体における抑制性神経細胞がその神経抑制機能が果たせないということや、さらに個々の神経細胞の突起形成の障害によるニューロサーキット異常のためにてんかん準備状態となり、その後てんかんを発症するのではないかと考えられた。原因遺伝子Epi-IERが神経突起の伸長と分岐に関わることを、初代培養細胞への遺伝子導入によって明らかにした。IERでは、Epi-IER遺伝子ゲノム上に一塩基置換があり、それがスプライシング異常を引き起こして遺伝子機能を失うことも明らかにした。また、ヒト疾患の探索のためのスクリーニングを開始した。神経センターにあるてんかん症例リサーチリソースの症例のリンパ芽球の中から、Epi-IER遺伝子の発現が低い群のスクリーニングを行い、極端にその発現が低下している症例群を見つけた。今後、ゲノム解析を行い、Epi-IERの異常によって引き起こされるヒトてんかんの同定に努める。
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