公募研究
脳の発生・発達には臨界期が存在するが、脳の性分化においても胎児期後半から新生児期にかけて、ホルモン環境の変化が脳に大きく作用していることが知られている。胎児期におけるホルモン環境の違いを明らかにするために、胎児の子宮内位置が生後の行動、脳組織に影響を及ぼすかどうか検討した。脳の視束前野性的二型核SDN-POAは雄の性行動を制御する部位であるが、雄に挟まれている胎児(2M)と雌に挟まれている胎児(2F)では、生後、SDN-POAの大きさが異なり、雄の2Mの方が雄の2Fよりも有意に大きいことが明らかとなった。また、視床下部腹内側核は雌の性行動や攻撃性を制御する領域であるが、腹内側核ニューロンにはエストロゲン受容体ERαの発現が見られる。ERαの発現は2Mの雌の方が2Fの雌よりも有意に高いことが明らかとなった。このような違いがなぜ生じるのか、ERαのプロモーターの1bにおけるDNAメチル化に注目し、検索したところ、2Fの雌の方が2Mの雌よりもDNAメチル化が多いことが示された。これらから、胎児期におけるテストステロンに暴露される量によって性差や同じ性でも異なる発現型が生じることが示され、ホルモンによるエピジェネティック作用が示された。一方、視床下部視束前野においてはヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)のERαプロモーターへの結合は雄の方が雌よりも高いことから、ホルモン臨界期である新生児期にHDACインヒビターやアンチセンスオリゴDNAを脳室内投与したところ、成熟期においては雄の性行動が顕著に減少した。これらは、HDACがヒストンのアセチル化を介して脳の雄性化に作用したことを示したものであり、臨界期でのエピジェネティック作用によって脳の性分化が進んだと結論された。
2: おおむね順調に進展している
脳の性分化についてはエピジェネティックな作用機構を分子、細胞、組織、行動レベルで解析し、その全容が明らかになりつつある。一方、ストレス応答に対する制御機構に関しては、動物実験モデルの確立に少し時間がかかり、当初の計画よりも若干遅れ気味である。
性機能分化研究に対する方法論的には問題なく、当初の実験計画に基づいて実験を行う予定である。ストレス応答実験については、SPS(single-prolonged stress)モデルが最も確立されたものであるとの評価が世界的に認められつつあるため、この実験系を中心に研究を進める予定である。行動解析については、ビデオモニターや解析手技もルーティン化されており、回数を重ねて統計的差異の抽出に進みたい。
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