研究領域 | シナプス・ニューロサーキットパソロジーの創成 |
研究課題/領域番号 |
23110535
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
岩田 修永 長崎大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 教授 (70246213)
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キーワード | アルツハイマー病 / 炎症 / ニューロン / グリア細胞 / ウイルスベクター / 遺伝子治療 / ネプリライシン / グルタミニルシクラーゼ |
研究概要 |
アルツハイマー病(AD)では脳内アミロイドβペプチド(Aβ)の凝集・蓄積が発症の引き金となることから、根本的治療のためには脳内Aβレベルを低下させることが必要である。Aβは前駆体蛋白質よりβ・γセクレターゼによる二段階切断によって産生するが、分解過程にはネプリライシン(NEP)が関与する。NEP活性が低下したADモデルマウス(APP tg)では、シナプス終末近傍にオリゴマー型Aβが集積し、その結果長期増強が障害を受け、海馬依存的記憶学習機能も低下する。一方、脳内NEPは、加齢依存的に、さらにAD初期段階より進行と共に発現レベルが低下することも明らかにされており、脳内NEPの活性増強はオリゴマー型Aβによるシナプス毒性に保護的に作用し、その後のAD病理を緩和すると考えられる。脳内ネプリライシン活性を直接増強する方法としては、ウイルスベクターを用いてNEP遺伝子を直接脳内に導入する遺伝子治療が利用できる。定位脳手術は臨床的にも行われている方法であり特別なことではないが、外科的手術を伴うため簡便性に欠け、広範な脳領域への遺伝子導入が難しいという欠点がある。そこで、今回末梢循環血内に投与し、より広くより簡便に神経系の疾患に応用できる脳内に遺伝子発現をもたらす遺伝子導入システムを開発した。NEP遺伝子を組み込んだ血管内投与型脳内発現ウイルスベクターをNEP欠損マウスの末梢血管内へ投与した数週間後に病理学的および生化学的解析を行った結果、ベクター量依存的かつ脳内の広範囲に渡る領域でNEPの発現が認められ、脳内Aβレベルも低下することが明らかになった。一方、認知機能が低下している加齢APP tgマウスへ当該ベクターを投与すると、学習記憶能力が改善されることも確認した。現在、これらのマウスのアミロイド病理や付随して起こる炎症反応等の組織化学的解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験計画に沿って研究を行い、血管内投与型脳内発現ウイルスベクターを開発し、NEP遺伝子を搭載した当該ベクターをマウスの末梢血に投与して、脳内の広範囲に渡る領域でNEPを発現させ、脳内Aβレベルも低下させることに成功しており、本研究はおおむね順調に進展している。また、今後の研究計画に障害を与える要因は今のところ殆んどないため、最終目標を達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、アミロイド病理や付随して起こる炎症反応等の組織化学的解析を進め、神経保護と炎症性グリア細胞の活性化抑制について詳細に解析を進める。さらに、アミロイド蓄積を促進し、かつ炎症を増強すると考えられる新たな標的分子であるグルタミニルシクラーゼ遺伝子を、血管内投与型脳内発現ウイルスベクターとRNAi技術をもちいて、in vivoで発現抑制し、アルツハイマー病治療に向けたNEPの増強と共にグルタミニルシクラーゼ発現抑制の潜存能力を実評する。
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