研究領域 | 分子自由度が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
23110701
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
稲辺 保 北海道大学, 大学院・理学研究院, 教授 (20168412)
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キーワード | π-d導電体 / 大環状π共役系配位子 / 電子相関 / 分子性導電体 / 接触型ドーピング |
研究概要 |
本研究は大環状π共役系配位子錯体を構成成分とするπ-d系の開発と有機結晶界面の接触型ドーピングによる機能開拓を目的としている。 23年度は、π-d系として軸配位型フタロシアニンの新規一次元導電体であるエタノールが配位したアルカリ金属をカチオン成分とする部分酸化塩について、Fe系の作製を行った。Co系についてはK塩、Na塩ともに明確な金属的挙動を示し、電子相関効果が弱まっていることが示唆されており、これがπ-系の特異な磁気輸送特性にどのように影響が現れるか、調べることを目的としている。Co系とは異なるone-pot電解法でFe系のNa塩の作製に成功し、またFe^<II>の塩を出発原料として電解することで、K塩の作製にも成功した。磁気物性および磁気輸送特性の測定に向けて、試料作成を進めている。他の大環状π共役系配位子として、ポルフィリン系の合成も進め、H2(tmp)およびH2(tpp)を電子供与体成分とする電荷移動錯体の作製を行った。フタロシアニン系と異なり、ポルフィリン系ではHOMOとなりうる分子軌道に2つの候補があるが、錯体中の分子間の重なり積分の評価から、電荷移動相互作用には両方の軌道が関与していることが見出された。今後は金属錯体を用いた導電物質の開発に取り組む。 接触型ドーピングについてはTTFとTCNQを組み合わせた系において、界面でのTTF-TCNQ錯体形成と接触面での電荷注入の両方の機構が働いて高伝導性が生じていることをラマン散乱およびAFM観察で明らかにした。この手法によるドーピングは電荷移動錯体にも適用可能で、絶縁体である交互積層中性錯体の高伝導化や、Mott絶縁体への電荷注入による高伝導化を見出している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・Fe(Pc)系で電荷不均化の弱まった結晶の作製に成功 ・ポルフィリン系での電荷移動相互作用の起源について纏めることができた ・接触型ドーピングの機構を解明 ・電荷移動錯体への接触型ドーピングに成功
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今後の研究の推進方策 |
・Fe(Pc)系については磁気物性の測定が可能な量の結晶を作製し、磁気輸送物性のためにより大きな単結晶を作製する。 ・ポルフィリン系の軸配位型Co錯体を合成し、電解結晶成長により導電体を作製する。得られた結晶について、構造解析、物性測定を行い、電子相関効果が強まっていることを確認。 ・接触型ドーピングでは、錯形成による高伝導化と電荷注入による高伝導化について、基板結晶と接触させる分子種の組合せを検討し、成分分子のドナー性、アクセプタ性の与える影響を調べる。
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