研究概要 |
分子性導体において,K-(ET)_2Cu(CN)_3やEtMe_3Sb[Pd(dmit)_2]_2といった二次元三角格子構造をもつモット絶縁体が合成され,スピンフラストレーションに由来する興味深い現象が数多く見出されてきた.これらの系では,強い磁気フラストレーションのために基底状態としてスピン液体状態が実現する.また,K-(ET)_2Cu(CN)_3やEtMe_3Sb[Pd(dmit)_2]_2は圧力下で超伝導を示し,局在磁性系に加え,遍歴・強相関電子系におけるスピンフラストレーションと超伝導の関係も興味深い.本研究では,二次元三角格子構造を有する遍歴・強相関電子系(特に,スピン揺らぎに由来する非BCS型有機超伝導体)として,K-(ET)_2Cu(NCS)_2およびβ-(BDA-TTP)_2SbF_6に注目し,これらの系に対して磁気抵抗の磁場方位異方性を超伝導状態からスピン揺らぎが残っていると考えられる常伝導状態まで広い磁場・温度領域で調べることを目的とした. (1)β-(BDA-TTP)_2SbF_6における上部臨界磁場の面内異方性: 上記物質の超伝導ギャップ構造は未解決である.本研究で上部臨界磁場の面内異方性を調べたところ,[010]方向および[001]方向よりも[011]方向に磁場を印加した時に上部臨界磁場が僅かに小さくなることを見出した.この結果は,この系の超伝導ギャップ構造がd_<xy>よりもd_<x2-y2>対称性であることを示唆する.(2)β-(BDA-TTP)_2SbF_6のフェルミ面: β-(BDA-TTP)_2SbF_6の上部臨界磁場の面内異方性を検討するためには,フェルミ面の面内異方性を確認しておくことが重要と考え,14.8Tでの磁気抵抗測定を行ない,第一原理計算との比較を行なった.実験から得られたフェルミ面の異方性が理論から予測されるそれと一致することを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である,スピン揺らぎに起因する物性評価を行なうためには,上部臨界磁場の面内異方性およびフェルミ面の異方性を実験的に決定することが必須である.H23年度は,K-(ET)_2Cu(NCS)_2およびβ-(BDA-TTP)_2SbF_6に対して,上部臨界磁場およびフェルミ面の異方性をそれぞれ決定した.これらを基礎データとして,H24年度はスピン揺らぎと磁気抵抗の面内異方性との相関を検討する.
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今後の研究の推進方策 |
K-(ET)_2Cu(NCS)_2については,上部臨界磁場の面内異方性から超伝導ギャップ構造がほぼ確定しつつある。今後は,非線形電気伝導領域まで測定範囲を拡張し,スピン揺らぎに由来する異方的ギャップ構造とボルテックスダイナミクスの面内異方性の相関の有無を実験的に調べる. β-(BDA-TTP)_2SbF_6については,フェルミ面トポロジーが実験的に明らかになったことから,磁気抵抗の面内異方性として,超伝導状態だけでなく,スピン揺らぎが残存すると考えられる常伝導状態まで磁気抵抗測定を行なう.
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