研究領域 | 分子自由度が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
23110705
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長田 俊人 東京大学, 物性研究所, 准教授 (00192526)
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キーワード | ディラック電子 / ヘリカル表面状態 / 量子ホール効果 / 有機伝導体 / 層間磁気抵抗 |
研究概要 |
高圧下の有機導体α-(BEDT-TTF)2I3は、質量ゼロの2次元ディラック電子系が弱い層間結合で積層した多層ディラック電子系であり、容易にn=0の基底ランダウ準位のみが占有される強磁場量子極限が実現する。更に強磁場領域での層間磁気抵抗の振舞は、ヘリカル表面状態を伴うν=0量子ホール強磁性状態の実現を示唆する。本研究の目的は、この新しい電子状態を実験的に確認し、その伝導物性を解明することである。 初年度はヘリカル表面状態による表面伝導の実験的検証に重点を置いた。試料内部を一様に流れるバルク伝導は試料の断面積でスケールされるが、表面伝導は断面の周長でスケールされる。単一の結晶をカットした断面積と周長の異なる試料の層間磁気抵抗のスケーリングを調べることにより、強磁場での層間磁気抵抗の飽和現象は表面伝導に由来することを明らかにした。また層間磁気抵抗の磁場方位依存性を調べたところ、ある特定の磁場方位でのみ飽和が強く起こることがわかった。層間表面伝導がν=0量子ホール状態にある各層のヘリカルエッジ状態間をトンネルすることによって起こるとすると、端面に平行な磁場方位で隣接エッジ状態間のトンネル確率は共鳴的に増大することになる。各エッジ状態は散逸的であるとして層間結合を摂動的に取扱って理論的に層間抵抗を評価すると、実験で観測された角度依存性を非常に良く説明できることがわかった。この角度依存性に関する理論と実験の一致もヘリカル表面状態の存在を間接的に示唆していると言える。 なお試料加工法の検討に時間を要し周長依存性の実験が遅延したため、研究費の一部を次年度へ繰り越した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では層間磁気抵抗の周長依存性の実験のために、制御した周長を有する整形試料の作製を企図し、レジスト内に埋め込んだ結晶を酸素プラズマで整形した後、凍結乾燥装置を用いてレジスト除去を行う工程を想定した。しかし実験を進めるにつれ結晶依存性の大きいことが判明し、異なる結晶を整形する実験は無意味と結論し、凍結乾燥装置の導入は見送った。この検討に時間を要したため周長依存性の実験が遅延した。
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今後の研究の推進方策 |
結晶依存性が大きいため、周長依存性の実験は、同一結晶をカットして厚さが等しく断面積と周長の異なる複数の試料を作製して行うようにした。他の実験は計画通りに推移しており、次年度は計画通り、エッジ(表面)伝導特性自体を実験的に詳しく検討することにより、ヘリカル表面状態の安定性を議論する予定である。
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