ダイヤモンドの結晶構造に特徴的な炭素のカゴ型クラスターを骨格にもつ化合物群「ダイヤ分子」は、バルク・ダイヤモンドの優れた物理的特性を受け継ぎつつ、ナノのサイズや特徴的な形状、高い対称性に起因した付加的電子機能を発現する可能性を秘めた新しい炭素系ナノテク素材である。全ての種類のダイヤ分子が室温で固体状態に凝集していることに我々は着目し、その結晶相に特有な新奇物性・電子機能の開拓に、実験と理論計算の双方から取り組んだ。 研究の前半では、水素終端されたダイヤ分子を対象に詳細な研究を行った。光学応用に有用な性質として、バルク・ダイヤモンドの間接遷移型バンドギャップがダイヤ分子結晶では直接遷移型になりギャップ値もケージ数で系統的に変化すること、高周波用の低損失な絶縁材料の可能性として誘電率がダイヤモンドに比べて半減すること、ダイヤ分子結晶が紫外光を吸収して蛍光する性質をもつことなどを見出した。また、実験検証の出発点として、ダイヤ分子を高度に精製し大型で純良な単結晶に合成する手法も確立した。 後半では、終端水素の化学置換により双極子モーメントを持つようになった「極性ダイヤ分子」を対象として、新たな研究展開を狙った取り組みを行った。ケトン化およびハロゲン化されたケージ数が1つと2つのダイヤ分子について、単離精製・単結晶化して基礎物性の実験的評価を行うと共に、分子単体および結晶相について第一原理計算による物性予測を進めた。誘電率の温度依存性において、結晶中の分子回転に起因する転移を反映した誘電異常の観測に成功した。これにより、回転のエネルギー障壁や異方性を制御・設計することにより、室温での強誘電性や非線形光学効果などの実現を目指す新たな研究の方向性を示すこともできた。
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